第13話 夢うつつ
夜半過ぎ。眠たかった。
アレックスが枕元にやってきて、リリィを優しく揺り起こす。目を
「どうしたの?どうしてここにいるの?アビゲイルは?」
リリィが寝ぼけ眼で聞く。
いつも同じ部屋で寝ている乳母のアビゲイルがいなかった。アレックスが夜遅くに〈皇妃の館〉にいるのだっておかしい。十歳以上の男性が夜に〈皇妃の館〉に立ち入るのは禁止されている。皇帝から妃への信頼と敬意の表れだろう。〈皇妃の館〉の主人は皇妃ヘレナであり、リチャードの
「メアリーが体調を崩したんだ。アビゲイルは看病に行ってる」
アレックスは
「風邪でもひいたの?熱がある?」
リリィが慌てて身を起こす。
「そうさ。熱がひどいんだ」
アレックスが答えた。
「私もメアリーの看病をするわ。友達がそばにいた方が心強いでしょう?」
リリィが子どもの
「いや、リリィは行かない。腕のいい医者とアビゲイルがついているから、メアリーは大丈夫だ。お前には今から会ってほしい人がいる」
メアリーの風邪は作り話だった。アビゲイルをリリィのそばから離すために病気を装ったのだ。仮病など皇女のお友だちにはお茶の子さいさいである。
リリィは兄のマントにくるまって廊下を進んだ。マントは温かく、まだ寝台の中にいるような気分だ。
兄の手が肩に置かれている。リリィは夢心地で安らぎさえ感じた。兄がそばにいる限り、
「短剣を持ってるわ」
リリィが思わず指摘する。
アレックスが足を止め、リリィに向き合った。
「そう、この通り武器を持っている」腰から短剣を抜いてみせて言う。「伝えておかなければならないことがある。今から会うのは、邪悪で、とても危険な相手だ。本当ならリリィに会わせたくなかったが、メアリーは強情で、こうと決めたら引こうとしない。まったく、彼女の将来が心配だよ」
「怖いけれど、平気よ。お兄さまがいるもの。でも、どんな人なの?」
リリィが信頼しきった様子で言う。アレックスはちょっと良心が痛んだ。メアリーのわがままと自分の
「魔女だ。だが本当のところ、魔女なんてこの世には存在しない。だからとんでもない
「お父様に魔女の話をされたわ。人を生きたまま食べるんですって。怖いわ」
リリィが身を震わして、義兄を見た。
「生きたまま食べたりしない。僕の従者のエドを知っているだろ、この前馬に乗せてもらった。彼も来ている。エドと僕がいたら、魔女だってタジタジさ。それからあと一つ。今日あったことは父上や母上に話しちゃいけない。今夜のことは全部夢の中で起こったことだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます