第23話 継母
アレックスはメアリーを〈皇妃の館〉の私室近くまで送ってやった。ひんやりと冷えた廊下をメアリーと一緒に歩いていると、先の方に人影が見えた。貴婦人が二人、立ち話をしている。きぬ
皇妃とアビゲイルだった。アビゲイルは娘の
メアリーがアレックスの
最初にヘレナが振り返った。メアリーの捜索にかかりきりになっていたのだろう。盛装のまま、夜着に着替えてもいない。見つけるなり、きつい感じの目元を少しだけ緩めて、メアリーの手を取った。
「メアリー!一体どこに行っていたのかしら」
メアリーは皇妃を見上げるとオズオズと微笑んだ。見る者の
アレックスはメアリーの変貌ぶりにやりきれなくなる。メアリーはヘレナの
唯一の救いはアビゲイルが感謝の雨あられを降らせてくれたことだ。よっぽど心配していたのだろう。メアリーにマントを被せてやって抱きしめると、皇妃の陰からしきりにお礼を言ってくる。
「りんごの木の下で皇子殿下を待っていたんです。それが殿下の習慣ですから。でも今日は暗くなるまでお会いできませんでした」
メアリーが落ち着き払って答える。
「あなたはどこに行ってたの?」
ヘレナが冷ややかな様子で皇子に向き直った。
「〈兵舎〉の方に。マティアス・トルナドーレに会うためです、
アレックスが簡潔に答える。
ヘレナは憎々しげに義理の息子を見つめた。敵を
アレックスは
「
皇妃が熱帯夜も、
「仰せのままに、皇后陛下」
アレックスが返事をする。顔色ひとつ変えなかった。
彼にとっても、皇妃の理不尽な扱いは屈辱だったに違いない。だが、アレックスは辛抱強く、形式だけでも皇妃には逆らわなかった。リチャードはヘレナがいくら口を
「一体幼いメアリーを長時間待たせて、どういうつもりなんですか」
ヘレナが責めるような口調で言う。
「皇妃様、うちのメアリーが悪うございます。皇子殿下との約束もなしに勝手に待っていたのですから。どうか娘のことでアレックス様を責めないでください」
アビゲイルが割って入って言った。隣でメアリーが悪びれない顔をしている。
皇妃も何か思い直したようでそれ以上アレックスにきつく当たらなかった。
「これからどこ行くの?」
最後にそれだけ聞いて。
「リリィに会いに行きます。約束したんです」
アレックスはそう答えると、
「あの子とリリィって、気味が悪いほど仲良しね。吐き気がするほど。まるで……そうね、
ヘレナはアレックスの去りゆく背中を険しい顔で見つめていた。
アビゲイルはうつむいて何も言わなかった。メアリーは皇妃が何を言っているのかわからない。今のところは空腹しか頭になかった。
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