第9話 吉報
着替えを手伝ってくれる侍女も召使いもいなかった。着替えははかどらない。急ぐこともなかった。まだ夢の中なのだ。使用人がアビゲイルに言付かってイリヤ城から持ってきてくれたのだろう。シンプルなクリーム色のガウンに、かなり手間取りながら着替えた。
階下の食堂に降りてゆくと、何やらジョンとアレックスが白熱した議論を交わしていた。もし武器を一つだけ携帯できるなら、弓矢か剣か。メアリーは呆れ顔だ。リリィは
食卓にはパンと肉入りスープ、りんごや苺、チーズなど様々な料理が並んでいた。豪華な朝食だった。使用人が忙しげに出入りして、なくなった水やパンを足していっている。アレックスとジョンは既にだいぶ食べた後のようだ。ジョンは朝から麦者など飲んで、
「どうしたの、浮かない顔して」
「今朝母がやってきて、戦争が終わったって言ったの」
メアリーが憂鬱そうな声音で言う。
「あら、おめでたいことじゃないの。信じられないわ。それでどうしたっていうの?」
リリィは思わず嬉しくなった。これで父の負担も少しは減るというもの。それに、もう男たちが戦争に行って命を落とすなんて心配しなくていいのだ。
「父が帰ってくるの。そうしたらエル城に連れてかれて、あなた達と離れ離れになっちゃうわ」
メアリーが悲痛そうな面持ちをした。
「そんなことってありえないわ。リーだって、今までアビゲイルもあなたも冬以外はイリヤ城に置いていたもの。どうして今頃そんなこと思いつくの?」
リリィはメアリーの不安を払拭しようとした。
「そうだよ、メアリー。リーが君たちをエル城に連れて帰るなんてありえないよ」アレックスが横から言う。「父上だって君たちを必要としている。それに、仮にも連れ帰られるようなことがあっても、僕がエル城に通うさ。ジョンもリリィもついてくるだろう?」
「ええ、私は毎日っていうわけには行かないけど、できるだけ行くわ。あなたと離れ離れになるなんて考えたくもないもの」
リリィが勢いづいて相槌を打った。
「メアリー、君をイリヤ城から引き離すなんて罪作りだよ。もしそんなことがあったら俺がリーに抗議する」
ジョンが珍しく優しい口調で言った。
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