ウェアウルフ フー・アム・アイ

猫カイト

第1話 旅なんて言い訳。

人が生まれてくるのには理由があるという。

人生とはその理由を探すための旅なのだとある人が言った。

そんなもの気休めだと思った。

何故なら俺は生まれてくるべきではなかった悪。

ウェアウルフだからだ。


「はぁ本当に長いお尻もいたいし。景色も変わらないし。」


長い時間馬車に揺られお尻が痛くなって来ていた私は愚痴をこぼす。


「まぁそう苛つくな。これこそが引っ越しの醍醐味ではないか。今まで見たこともないようないい景色ではないか。」


父は私を宥めるようにそう言う。


(何が旅だ。これが逃避行だと気づかぬほど鈍感だとでも思っているの?)


私は父の嘘に父という人間が心底嫌になる。

引っ越しなんていい言い方だ。

本当は立場を追われての夜逃げ同然なのを私が知らないとでも思っているのだろうか。

こんな時にまで娘に見損なわれたくないという考えが出ている時点で夜逃げも当然か。


ギギッ・・・

私が父を軽蔑していると馬車は馬の悲鳴ともに突然停車する。


「何故止めた!?まだ目的地ではないだろう!」


父は先程までの余裕は何処にやら、声を大きくあらげる。

余程国からの追手が怖いと見える。

やはり小物だ。

そんな風に思っていると

「ヒィ!命だけは!!」


御者が怯えた声をあげたすぐ後馬車の扉が開く。


「そりゃあここが検問所だからさ!!」

「と、盗賊ッ!。」


父は周りに陣取る盗賊に怯えた様子で腰を抜かす。


「おいおいお父さん。そう怖がんなって俺達はただの衛兵だぜ?もっとも盗賊の国のだがなぁ!!」

「随分品がない衛兵だこと。」

「こ、こらメイベル!や、止めなさい」


「随分気が強い娘さんじゃねぇか!!お父さんと違ってなぁ!元気なのは良いことだそうだろお父さん?」


そう笑いながら盗賊のリーダーのような男は父の隣に座る。


「ははっ、そ、そうですね。」


父は怯えながら話を合わせる。


(その腰の剣は飾りですか。そいつさえやれれば後は二人。私とお父様でなんとでもなるでしょうに。しょうがありませんね。)


私が剣を抜こうとしたその時、風を切って私の横にナイフが飛んでくる。


「まぁまぁ、慌てなさんなお嬢ちゃん。俺にゃ少女を切る趣味なんてありゃしねぇ。だがそっちがやる気なら俺らもやらなきゃならねぇ。命の為だからな。分かるだろ?」


盗賊は剣を私の首元に近づける。

その剣は父や私が持っている剣のように生き物を切った事がないような綺麗な刃物とは違う。

所々黒く変色していて、使いならされたような感じだった。

その剣と先程のナイフでの牽制で分かる。

私や父のような道場剣術とは違う。

実戦でいくつもの相手を葬り去ってきた実戦剣術。

私達では歯が立たないだろう。


「何も俺達は身ぐるみを剥ごうって事じゃねぇ。

通行料としていくらか置いていって欲しいってだけさ、ことは荒立てたくないだろうお父さん?」

「そりゃあも、もちろん。」


父は震えた声で盗賊に同意する。

悔しいが命を守るためだ仕方ないだろう。

盗賊は私達の荷物を物色しはじめる。


「こいつはいい。こいつとそっちの箱で勘弁しといてやる。」


男はルビーの指輪を持ちながらそういい放つ。

それは...


「それだけは止めて!!母の形見なの!!」


私は声をあらげる。

これだけは渡せない。


「や、止めなさいメイベル!!それで命がたすかるなら安いもんだろ!」


この男は何を言うのか。

あのルビーの指輪は母の遺品。

唯一の母との思い出の品。

それを失うぐらいなら...

私は腰の剣に手を伸ばす。


「なんだやる気...」

「うわぁぁ!!」


盗賊の男が私に向かって剣を抜こうとしたそのとき、

外で見張っていた盗賊の声が突然森を響き渡る。


「どうした!?ピエール!?」

「そ、それが瞬きした瞬間にピエールの奴が消えて悲鳴が!!」

「てめぇら仲間がいたのか!?」

「し、しらない!!」


そう盗賊の男が私達に剣を向けて詰め寄る。

本当に何も知らない。

そもそもそんなアサシンのような仲間がいればこんな状況になる前に始末していただろう。


ドサッ


「ヒィ!」


今度はもう一人の女の盗賊の声が聞こえる。


「どうしたライラ!?」

「ピ、ピエールの奴が!!」


ライラと呼ばれた女性の怯えた声につられ盗賊の男が外に出る。


「ピ、ピエール!!だ、誰だこんな惨いことしやがったのは!!」

「ウェアウルフだ...ウェアウルフだよ!!カルロス!」

「そんなもん都市伝説だ!!とりあえず上を警戒しろ!」


「ウェア?」


私にはよく分からなかった。

奴等が何に怯えているのか、

ピエールという奴がどうなったのかも分からなかった。

だが怖かった。

何か得たいのしれない物が外にいることは分かっているから...


そうして怯えていると遠くから大きな唸り声が聞こえる。

それはそうまるで


「ウルフだ!!ウェアウルフになんて叶うわけ...」

「待てライラ!!何処にいく!!」


誰かの走り出す音が聞こえる。

話からしてライラと呼ばれていた女性だろう。


「キャアア!!」


その足音のすぐ後悲鳴がまた森を木霊する。


「で、出てきやがれ化け物!!お、おれがッ!」


そういい放ったのが私が聞いたその男の最後の声だった。


「ど、どうするメイベル。」

「どうするも何も出るしかないでしょ。」


このままここに閉じ籠っていてもいずれ外にいるなにかの餌になるだろう。

私はゆっくりと音を立てないように扉を開けようとする。

恐怖と震えによりなん十分もかかっただろうか。

扉を開けた時、そこには何もなく、ただ一人の青年が座っているだけだった。


「遅かったねもうウェアなら行ったよ。後これ君たちのだろ?」


青年はそう言い、指輪を投げる。


「よかった。」


ウェアがなんなのかとか彼は誰なのかとか色んな疑問と恐怖があったがまず出たのは安堵の声だった。


「そんな指輪一つでそんなに嬉しいかい?」


青年はそう不思議そうに首をかしげた。

その不思議そうな目だけは忘れない。

まるで純粋な子供のような獣のような目だった。











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