第16話 汚部屋の大掃除
掃除を始めて早4時間。リビングを除く7部屋の掃除はほぼほぼ完了した。
幸いどの部屋も物が大量に置かれていただけなので掃除はすぐに終わった。ゴミ袋の数が予想以上に多いけど、それもすぐになくなるだろう。
「よし! だいぶ綺麗になったな」
廊下を塞いでいたあのダンボール箱も紙紐を使って全て綺麗にまとめた。
それを片付けたおかげで廊下が歩きやすくて仕方がない。
「ダンボール箱が敷き詰めらていてわからなかったけど、この家の廊下ってこんなに広かったんだな」
人1人がギリギリ通る事が出来る状態だった頃からは想像がつかない程、この家の廊下は広い。
こんな広い廊下にあれだけの段ボール箱を立てかけられるのはある意味才能だろう。依子の隠れた才能に俺は恐れ慄いた。
「依子!! いる物といらない物の選別は終わった?」
「まだ!! 今やってる所!!」
「わかった!! いらないものは後で全部捨てるから、端によけといてくれ!!」
俺が他の部屋の掃除をしている間、依子はリビングで俺が部屋で見つけた物の分別をしてもらっている。
本当は全部捨てたかったけどさすがに人の家の物を勝手に捨てるわけにもいかなかったので、一旦依子に必要な物といらないものを分別してもらい、その中でいらない物だけをゴミとして捨てることにした。
「掃除機もかけたし、これでこの部屋の掃除は終わった。あとは依子が分別している物を片付ければ、この大掃除も終わりか」
この調子なら俺が思っていたよりも早く掃除が終わりそうだ。
こんなに早く掃除が終わるのは、その殆どが紙や段ボール等の燃えるゴミだったので分別する必要がなかったせいだ。
「そういえば依子の方はどうなってるだろう?」
いらない物の分別を頼んだとはいえ、結構な量をリビングに運んでしまった。
もしかするとあまりにたくさんの物を持っていったせいで、分別するのに時間が掛かっているのかもしれない。
「少しだけ様子を見に行くか」
昨日の今日で環境が激変して依子も戸惑っていることだし、よくよく考えて見れば、彼女には少しばかり酷な事をさせているかもしれない。
なので俺はリビングにいる彼女の手伝いをすることにした。
「依子、そっちはどうだ?」
「こっちは順調よ」
「順調じゃないだろう!! ゴミの分別をサボって、ソファに寝そべって漫画なんて読むなよ!!」
依子の心配をした俺が馬鹿だった。
彼女はリビングにあるソファーの上でうつぶせになり、さっき俺が持っていった山のような漫画を読んでいる。
「しょうがないでしょう。この漫画、ずっと探してたんだもん」
「その気持ちは俺にもわかるけど、そんなことをしていても片付かないだろう」
「でも啓太だって掃除している時に漫画とか読みたくならなかった?」
「なったよ。学生時代は俺も依子と同じことをしてた」
「でしょ。私も今はそういう気分なの」
「なるほど。それならしょうがな‥‥‥ってならないだろう!!」
今の依子はまるで母親に言い訳をする子供みたいだ。娘を持つ母親の気持ちが今ならよくわかる。
「(ここで依子と舌戦を繰り広げるよりも、別の方法を取った方がいいな)」
たぶんこれ以上俺が叱っても絶対に依子は動かないだろう。むしろこれ以上叱ると大喧嘩になる可能性が高い。
そうならない為にも別の方法で依子を動かすしかない。その為の方法を俺はもう考えてある。
「そんなに暇を持て余しているのなら、仕事をすればいいんじゃないか?」
「仕事?」
「そうだよ。漫画を読んでいる暇があったら、配信者としてやる事があるだろう?」
「例えば?」
「次の配信準備だよ。配信用のサムネを作ったり、企画の事前準備とその資料作成。素人が思いつくだけでもこれだけやることがある」
「驚いた! 啓太はサムネって言葉を知ってるんだね」
「まぁな。昨日家に帰ってから色々と調べたんだよ。さすがに業界の事を何も知らないのはまずいから、基礎知識だけ頭に入れた」
「それなら‥‥‥私の事も調べたの?」
「調べてないよ。というか依子がどんな名前で活動しているかもわからないのに、調べられるわけがないだろう」
昨日自分の名前をスラスラと言っているのを見て、依子が本名で活動していない事は鈍感な俺にもわかる。
そういった事情もあり、俺は彼女についてあえて何も調べなかった。
それに知らなければいい事も世の中にはある。昨日の相馬さんの様子を見れば、俺は何も知らない状態で依子と接した方がいいような気がする。
「(だから俺は依子がその事を話してくれるまで待とう)」
それが現時点では最善の策だろう。いつか彼女が俺に相馬さんとの件を話してくれるまで、気長に待つことにした。
「そっか。それならいいや」
「これから依子をサポートする身としては、知りたい情報だけどな」
「そんなに私の芸名が気になるの?」
「別に」
「啓太知ってる? 男のツンデレは需要がないんだよ」
「そんな事知ってるよ!! ってか、俺はツンデレじゃない!!」
「それがツンデレって言うんだけど、啓太にはわからないか」
なんだか依子に馬鹿にされている気がするが全くと言っていい程怒りが湧かない。
それはきっと俺が彼女の笑顔にほだされているからだろう。こんな笑顔にごまかされるなんて、俺もまだまだだな。
「どうしたの、そんなに私の事を見つめて?」
「別に」
「わかった! もしかして啓太、私に見惚れてるんじゃない?」
「みっ、見惚れてなんていない!?」
「そんなに慌てちゃって、説得力がないよ!」
なんだか依子の手のひらの上で踊らされているようでムカッときた。
そんな俺の気も知らず、依子はいらずらが成功した子供のような笑顔で俺の事を見ていた。
「よし! この漫画も読み終わったし、そろそろ片付けの続きを始めましょう」
「そうしてくれ。このままじゃ今日中に掃除が終わらない」
ソファーから立ち上がると、その場で伸びをした依子。
それから目の前に置かれている物の選別を始めた。
「俺も手伝うよ」
「ありがとう。啓太の気持ちは嬉しいけど、私1人で大丈夫だよ」
「そうか、わかった」
「私の事を心配するよりも、啓太は部屋の掃除は終わったの? 私の事ばかりにかまけてないで、そっちを先に終わらせた方がいいんじゃない?」
「それならほぼ終わったよ。全ての部屋の中に掃除機をかけて床を綺麗にした後、はたきを使って壁の埃も綺麗に取った」
「えっ!? まだ片づけを始めて4時間しか経ってないよ!? そんなに早く掃除って終わるものなの!?」
「いらない物をゴミ袋にまとめるだけだから早かったんだよ。もし自分でゴミの分別をしていたら、もっと早く終わっていたかもしれない」
それとゴミの殆どが段ボール箱だったことが大きい。
同じ種類のゴミしかなかったので、分別の必要がなかったのも早く終わった要因の1つだ。
「いらないものはこっちに渡してくれれば、俺の方でゴミをまとめておくよ」
「うん。わかった」
「それと片付けが一息ついたら昼食を取ろう」
「昼食!? もしかしてまた昨日のつけ麺を買ってきてくれたの!?」
「まっ、まぁな」
昨日買ってきたつけ麺はないけど、たぶん大丈夫だろう。
あのつけ麺に匹敵するぐらい美味しい料理を作ればいいんだから、何も問題はない。
「今日のお昼ご飯、期待してるからね」
「おっ、おう」
「それじゃあ早速掃除の続きをしましょう! あそこに置いてあるものは全部ゴミだから、捨ててもらって構わないわよ」
「わかった」
こうして俺は依子と2人で部屋の掃除を再開した。
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ここまでご覧いただきありがとうございます
続きは明日の7時に投稿します。
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