俺と幼馴染の親を結婚させた
炭石R
幼馴染編
目が覚めると、腕の中に
「ごめん、起こしたか」
「最高の目覚めだったよ」
起き上がろうとしたが、柿茉が俺の背中に回した手に力を込めて、ぎゅっと体を密着させてきた。
「ちょっとだけだからな」
「うん」
今日は学校が休みだけど、あまり遅いと両親に呆れられてしまう。
こうして俺達が同じベッドで起き、日中はもちろん、日が沈んでからも常に一緒という最高の生活を送れているのは、柿茉の突飛な提案のおかげだ。
「ね、私のママと
あれは数年前、二分の一成人式の帰り道だった。今思えば、あれは大人の半分という節目で、自然と未来を考える時期。お互いに、将来への不安を感じていたのかもしれない。
そんな中、柿茉に提案されたのだ。
「……確かにずっと一緒なのは嬉しいけど、それだと僕達は結婚出来なくなるんだよ?」
当時から俺は柿茉と結婚するつもりだったし、永遠に柿茉を離さないと決めていた。法律に阻まれるのは、嫌だった。
「ふっふっふー。私が調べてないとでも?親の連れ子同士なら、血が繋がってないから結婚できるんだって。それならどう?」
「それなら……、うん。いいかも」
俺の部屋で遊んでいても、夕方になって柿茉が帰ると、父さんが帰ってくるまでは家に一人きりだった。さっきまで触れ合っていた温もりも、聞こえていた笑い声も、噛みしめていた幸せも無い。柿茉の残り香だけが漂う、無機質な部屋。
そんな悲しい時間が無くなると考えただけでも、心が弾んだ。
「でも、どうすればいいんだろ」
「それはまだ考えてないんだけど、あの二人はちょっと押せばくっつくと思うんだよね」
「え、なんで?」
「女の勘ってやつ?」
「そっか、うん。分かった」
そして、俺達はスマホで大人の恋愛という物を調べながら、二人を結婚させる為の計画を実行した。
それまでは俺の部屋で過ごす事が多かったけど、わがままを言って遠出をして、二人きりにしてみたり。お互いの親の好きなところを教えあって、それとなく伝えてみたり。二人が結婚してくれたらいいのに、と冗談っぽく言ってみたり。
結果からすれば俺達の計画はバレバレだったが、そんな俺達に対してどう接するかを二人で相談し合ったのが、関係を変えたきっかけらしい。そして何より、父さん達は幸せそうにしているし、俺達も幸せだ。
両親が結婚してくれて、本当に良かった。
「そろそろ起きるぞ」
「むぅ……」
恐らく数十分は経ったので、声を掛けた。柿茉は不満そうにしていたが、キスをすると腕を解いてくれた。
ベッドから起き上がり、パンツを履いて、タンスから出した洋服を着る。柿茉も少し遅れて起き上がると、下着を着け始めた。まずはショーツを履いて、前屈みでブラジャーを着け、位置を調整している。
「なんだかんだ毎日見てるよね」
「まあな」
いつも俺が先に着替え終わるので、柿茉の着替えが終わるのを待ちながら、その姿を見ている。
今日も下着姿になった柿茉がタンスから洋服を取り出して、スカートを履き、キャミソールとオフショルダーニットを着るまで、しっかりと見届けた。
「おまたせ」
柿茉が着替え終わったので、二人で洗面所に向かい、並んで歯磨きをして、順番に洗顔をした。
リビングで両親におはようと言うと、父さんには呆れながら、母さんには微笑みながら返される。時計の針は、既に空を向き始めていた。
「朝からお楽しみだったのかしら?」
「母さん。違うからやめてくれ」
母さんの事は父さんと結婚する前から知っていたので、結婚してからも少しの間は名前で呼んでいたけど、今では自然に母さんと呼べている。こうやって俺達の恋愛事情を普通に聞いてくるのも、残念ながら慣れてしまっている。
「あら、そう?」
「私は楽しかったけどね」
「誤解を招こうとするんじゃない」
あくまでも抱き合っていただけ……。いや、これだと更によくないな。抱きしめ合っていただけだ。
「あと、ママ達はお昼からデートに行くけど、夜には帰ってくる予定だから」
「朝帰りでもいいんだよ?」
柿茉よ。親のそういう話は聞きたくないから止めてくれといつも言っているだろう?
「あなた、どうします?」
「……その、だな」
ほら、父さんも困ってるし。
「じゃあ、今夜は帰らないから、食費は置いておくわね。作るなり頼むなり、好きにしていいわよ」
と思ったが、今の反応だけで理解したらしい。つまり、今夜はこの家に柿茉と二人きりだ。
「わかった。楽しんできてね」
「二人も、デートに行きたかったら言ってね。朝帰りは駄目だけど、夜のうちに帰ってくるならお金は出すわよ?」
「私達は一緒に居られればそれでいいの。ね、柚暁」
「まあな」
俺は柿茉の可愛い姿を他人に見られるくらいなら、家に居たいと思ってしまう。それは柿茉も同じで、俺がデートの時に気合を入れた格好をしたら、急遽お家デートに変更になった事もある。
だから、俺達はデートの時でも自然体で、むしろ家に居る時の方が身だしなみに気を遣っているのだ。
「そう?ならいいけど。何かあったら遠慮なく言うのよ」
「うん、ありがと」
「柚暁もね」
「分かってる。ありがとう」
父さんは朝帰りの件で未だに居辛そうにしていたが、恐らく柿茉と母さんは今後も変わらないから、早く慣れた方が良いと思う。
両親がデートに行ったので、俺はリビングで勉強をしていた。シャーペンを滑らせる音が重なり合っている。
「ねえ、どこまで進んだ?」
机に伏せられたスマホから、柿茉の声が聞こえた。俺達は隣に居るとイチャイチャしてしまい、勉強が進まなくなる事がある。それを防ぐ為に、ビデオ通話を繋ぎながら、部屋とリビングに別れて勉強をしているのだ。
ビデオ通話だけど、顔を合わせていると集中出来ないので、スマホの画面は勉強を教え合う時しか見ない決まりだ。
「222ページ」
「え、早いね。私まだ214ページなんだけど」
「おい。膝の上に何がある?」
「…何もないよ?」
今の間が全てを物語っている。俺の枕を抱きしめていて、勉強に集中出来ていなかったのだ。
「ベッドに戻せって。柿茉が終わらなくても、俺は一人で休憩するからな」
「ひどい!」
「なら、集中すればいいだろ」
俺がそう言うと、ボスッと枕が投げられた音が聞こえた。そして、ガタガタッという音がする。
「ねえ、スマホ見てよ」
「見ない」
「いいの?」
「いい」
画面に何が写っているのか。そんなのは、見ないでも解る。俺の集中を乱すために、ショーツを映しているのだろう。だが、そのくらいであれば見慣れ――
「さっき、ショーツも脱いじゃったのにな」
……まあ、待て。落ち着け?
もし仮に本当だったとしても、幼い頃から何度も見た事があるだろう?それに、映っているのは机の下だから、暗くてよく見えな――
「スマホのライトを当ててるから、よーく見えるはずだよ」
――なん、だと?
俺は光の速さでスマホの画面を見る。そこに広がっていたのは、絶景だ。
暗い机の下。スカートの奥で開かれた脚の間には、照明によって浮かび上がる白のショーツ。脱いだというのは嘘だったが、洞窟の奥底で輝く鍾乳洞かのように、美しい
「見たでしょ。どう?」
「……別にこのくらい、毎日見てるからな」
「ふふっ、ちゃんと勉強に集中しなきゃダメだからね?」
「分かってるよ」
確かに幻想的で蠱惑的な光景だったが、見慣れているというのも事実。
柿茉の無防備な下半身を覗きながら勉強をしていたので進捗は遅くなったものの、手が止まる事も無かった。
そして、数時間後。同時に勉強を終わらせた俺達は、部屋にあるテレビの前に座っていた。
「今日こそは、ちゃんと見るぞ」
「うん。頑張ろうね」
今から見るのは【スニーキング・デッド】という海外ドラマだ。ゾンビから逃げ惑う人々を描いたとても面白いドラマなのだが、見始めてから数ヶ月経った今でも、九話しか進んでいない。
二人で見ているとイチャイチャしてしまい、最終的にはドラマを中断して、ゴーイング・ベッドしてしまうのだ。
「っ!?」
ドラマを再生すると、突然ゾンビが襲い掛かってきて、柿茉の体がびくっと跳ねた。このドラマには、驚かせてくるような演出が多い。俺は柿茉を膝に乗せて、後ろから抱きしめているので、感情が直に伝わってくる。
「今日はちゃんと見るんじゃなかったの?」
「……あ」
ゾンビが襲い掛かってくる度に体を震わせている柿茉があまりにも愛おしくて、俺は無意識に胸を揉んでいたらしい。
「ごめん」
「まったく。もっとぎゅってしていいから、我慢してよね」
「分かった」
俺は少しだけ力強く柿茉を抱きしめて、胸を揉まないように気を付けた。
その後はゾンビの襲撃を乗り越え、濡れ場もイチャイチャする事なく乗り越えた。だが、もう少しで半分というタイミングで、柿茉に腕を引っ張られた。後ろから抱きしめる時の定位置である胸の下から、更に下へと手を誘導されている。
我慢出来ないのなら、こんなまどろっこしい事をせずに上下に揺れて、俺を刺激してくる。これはむしろ逆。我慢する為に、手を掴んでいて欲しいのだ。
「柿茉、ありがと」
「うん」
だから俺は、導かれるままに腕を下ろした。そして柿茉の両手を掴み、お腹に置いて、安心させるように両手で優しく包み込んだ。
こうしていると柿茉の興奮がより伝わってくるけど、我慢だ。俺から手を出して、柿茉の気持ちを無駄にしたくない。
最後の十五分間。柿茉は腕をもどかしそうに動かしていたが、ベッドに行くことなく、無事にエンドロールが流れ始めた。
このドラマを見始めてから、初めて一話を続けて見る事が出来た。ゾンビの襲撃も、濡れ場も無事に乗り越えた。言葉に出来ない程の達成感だ。
ドラマの二話でゾンビの襲来を乗り越え、夜明けを迎えた主人公達も、こんな気持ちだったのかもしれないな。
――ドサッッ
だが。そんな感動に浸っていた俺は、エンドロールが終わった瞬間に押し倒された。
柿茉の顔が近づいていたので、俺は咄嗟に手を当てて防ぐ。
「頼むから聞いてくれ。このままするよりも、夜から朝までずっとした方が幸せだと思うんだ」
柿茉はもごもごと口を動かしながら、まるで襲い掛かるゾンビのように激しく抵抗していたが、俺の言葉を聞いて静止する。
「俺も興奮してるから、気持ちは凄い解る。けど、今から準備をすれば、半日以上ずっと出来るんだぞ?」
「…………確かに。途中でお腹が空くのは困る」
そして、続けた言葉で納得してくれた。
「ありがと」
――チュッ
俺は感謝を込めて、唇が軽く触れるだけのキスをした。
「夜ご飯、どうする?頼む?」
「作ると時間が掛かるし、そうしよう」
「うん、だよね」
方針も決まったので、二人で一つのスマホを覗き込み、ドラマの感想を話しながら夜ご飯を選んだ。
お腹を満たした俺達は、少しだけ悩んだ結果、お風呂に入る事にした。
手を繋いで浴室に入ると、柿茉は先にシャワーを浴びてから、湯船に浸かった。
「……そんなんで風邪を引いたら本っ当に怒るからね?」
水面に浮かんだ大きな胸を相変わらず不思議だよな。と思いながら眺めていたが、ジト目の柿茉に、早くシャワーを浴びろと圧を掛けられてしまった。
俺達のどちらかが風邪を引くと触れ合えなくなってしまうので、体調には常日頃から気を遣っているつもりだ。それなのに胸を見ていて風邪を引くなんて、確かに嫌すぎる。
俺は横からの視線を感じながら体を洗い、柿茉と交代して湯船に浸かった。
「あのさ、裸なんて見慣れてるはずなのに、何で飽きないんだろうね」
水に濡れた、艷やかな髪。
髪を洗う時に見えた、綺麗な脇。
谷間を洗う為に、持ち上げられた胸。
お尻や、その前の部分を洗う様子。
その全てを眺めていたら、呆れたように、けれど自嘲するように。柿茉が溢した。
「分からないけど、何十年経っても飽きるとは思えないんだよな」
俺達が年老いて、自由に歩く事さえままならなくなったとしても、お互いに対する愛欲は変わらないと確信している。
「ほんと、不思議だよね」
「まあ、それだけ俺達の相性が完璧って事だろ」
「ふふ、確かに。それなら当り前かも」
俺の返答に納得したのか、柿茉はシャワーを体に当てた。そして、泡を流し終えると浴槽に入り、向き合うようにして反対側に浸かった。
「まだ興奮してるね」
「まあ、な」
お湯は透明なので、柿茉の体は余すこと無くしっかりと見えている。それはつまり、柿茉からも同じように見えているという事だ。
「あのさ、柚暁はどんな感じ?」
「柿茉と同じだよ」
「そっか」
お互いに快楽よりも幸福を求めているので、今夜は普通に眠る事に決まった。いつも通りにお風呂に入った時点で半ば決まっていたけど、柿茉は聞いてくる事が多い。
性欲が芽生え始めた頃の俺は暇さえあれば常に柿茉を求めていて、柿茉は気分でなくとも応じてくれた。その名残が、未だに残っているのだ。
「ありがとな」
「突然どうしたの?」
「特に理由は無いけど、伝えておこうと思って」
「じゃあ、私もありがと。今は柚暁が私に付き合ってくれることが多いから、すごい嬉しい」
柿茉は俺を跨って、抱きしめた。確かに、最近は興奮した柿茉に襲われるようにして始まる事も多い気がする。
「でも、無理――」
――チュっ
「解ってる。それでも嬉しいし、感謝してるの」
「……どういたしまして」
無理をしている訳では無いと伝えようとしたが、唇を塞がれてしまった。そんな当然の事、わざわざ言う必要も無いか。
「ふふ、なんかおかしいよね。あのドラマなら、この後はえっちなシーンなのに」
「人それぞれって事だろ。俺はこのままでいいよ」
幼い頃から裸で抱き合っていた弊害なのだろうか。俺達は、普通の男女とは違うらしい。敏感な場所を刺激し合えば興奮するし、恋人繋ぎをしただけでも興奮する。たが、こうして裸で一緒に居ると、むしろ落ち着いてしまうのだ。
「私も。だって、幸せだもん」
「だよな」
柿茉を抱き寄せて、よリ濃密に体を合わせる。感じるのは、溺れる程の幸せだ。
お互いに満足したので、お風呂から上がった。いつも通り体を拭いて、下着姿でドライヤーをしている柿茉にボディオイルを塗って、終わったら歯磨きをする。
部屋に着いたら暖房をつけて、パジャマを脱いで、下着も脱いでベッドに入った。
「ぽかぽかだね」
「だな」
冬に裸で寝るなんて普通なら寒いのかもしれないが、今は全身で柿茉を感じている。抱きしめ合って、密着して、脚を絡める。素肌が擦れ合い、心の奥底から温まっている。
「おやすみ、柿茉」
「おやすみなさい、柚暁」
俺達は、瞼を閉じる。
お互いの顔を再び見る時には、
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