46 アルバのお仕置き

 ……う…………ん。

 私……あの後倒れて気を失ってたんだ。

 

 ぱちりと目を開けて視線を動かしてみた。ここは私の部屋で私のベッドだ。いつのまにかネグリジェに着替えてる。寝ている間にミィが着替えさせてくれたんだろうか。

 部屋は薄暗く、蝋燭の炎が部屋を灯している。どうやら倒れている間に夜になってしまったみたい。

 なんだかぽかぽか体が温かいし、右手には誰かの手の感触がある。手を握っている相手を確かめてみると、ベッド脇の椅子に腰掛けて眠っているアルバの姿があった。魔力を流し続けて疲れて寝てしまったのかな。

 

 ア……。

 

 私は体を起こし、アルバに声をかけようとしたんだけど、規則正しい寝息を立てているアルバの美しい寝顔に思わず見惚れてしまった。

 

 蝋燭の明かりに照らされた白い肌、美しく整った顔立ち。まつ毛はふさふさだ。月の光のように煌く銀髪がさらりと流れて前髪が顔の半分を隠した。

 ふと髪の毛に触れたい欲求が湧き起こって、目にかかる前髪を少し動かしてみた。

 すると、アルバの瞼が開いて金と緋色の瞳と目が合った。


「アル……」


 アルバは椅子から立ち上がるとそのままベッドへと上り、ゆっくりと私に覆い被さりベッドに押し倒された。


 ――⁉︎

 一体私の身に何が起こったんだろう。

 ドキドキと高鳴る胸の鼓動。

 アルバが顔を近づけて囁いた。


「私のいないところで倒れないで……」


 アルバの甘く切ない声。また倒れたことでアルバにも心配をかけてしまったんだ。私を助けられるのはアルバしかいないのに、遠い他国の地で水やりをしたのは自殺行為だったかもしれない。今までなんとかなっていたからって甘えすぎてた!


「ごめん……なさい」


「これは罰ですからね」


 私の右手を取って、数回手の甲にキスをするアルバ。

 くすぐったくて、恥ずかしい。


 罰と言いながらも優しい手つきで温かい魔力が伝わってくる。


「……アルバはリシュリューに頼まれてここに来てくれたの?」


 アルバが一瞬固まったあと私の耳元に顔を近づけ


「今は私の事だけを考えて」


 と囁いた。なんというイケボ……。これじゃ罰じゃなくてご褒美だとおもっていると、挑発的な目線で私の目を見つめながら私の指を甘噛みしてきた。ぞわりと背中に不思議な感覚が走る。


「ひゃっ! 何するの」


「すみません、でもハナがいけないんですよ」


「……どうして?」


 アルバは私の頭をポンポンと撫でると、ベッドから降りて、騎士服の襟元を正した。


「今日はもう遅いので私はこのまま失礼します。おやすみなさいハナ」


「わざわざ来てくれてありがとう。おやすみなさい」


 アルバが部屋を出ていった直後、ドアの向こうからアルバと側仕えのミィの声が聞こえた。そしてドアのノック音が響く。


「どうぞ」


 先程の声の主、ミィがやって来た。


「顔色が戻ったみたいで良かったです。あれっ、でもハナ様のお顔が少し赤いような……」


「大丈夫、もう大丈夫だからっ」


 先程までアルバに掴まれていた右手首を見つめているうちにリシュリューに貰ったブレスレットが外れていることに気付いた。寝てる時も外さないようにって言われてたのにもう外してしまった……。


「ミィ、私の付けていたブレスレット知らない?」


「ブレスレットでしたら、着替えの際にアクセサリーケースにしまっておきました」


ベッドから起き上がって、ドレッサーの引き出しを確認するとアクセサリーケースの中にタンザナイトの宝石が煌めくシルバーブレスレットがあった。ブレスレットを腕に巻いてから留め具に引っ掛けたいのに不器用でなかなか上手くいかない。見かねたミィが手伝ってくれた。


「助かったー、ありがとう」


 ドレッサー近くにあるソファの上でドラが丸まって寝ていた。ドラの寝相が悪かったのかソファの下にブランケットが落ちている。私はそれを拾ってドラに掛け直してあげた。ドラもちゃんとこの部屋に帰ってきてたんだ。


「私ってここまでどうやって帰ってきたのかな」


「私が来た時にはすでにハナ様がベッドで寝ていらして、アルバ様が看病なさってました」


「私の着替えはミィがしてくれたの?」


「はい、アルバ様には一旦部屋を出ていただいて、ハナ様のお体を拭かせて頂きました」


 リシュリューがアルバを呼んでくれたのかな。沢山の人に迷惑をかけてしまったみたい。


「ハナ様、食事はどうされますか? なにか軽いものでもお持ち致しましょうか?」


「お腹は全然空いてないし、まだ本調子じゃないから今日はこのまま寝るー」


「かしこまりました。それでは失礼致します」


 メイド服のスカートの裾をつまんでお辞儀して、部屋を後にしたミィ。


 ベッドで眠りにつこうとしても、アルバに押し倒された時のことを思い出してしまってなかなか寝付けない夜だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る