37 R
「あの青い建物が魔道具専門店ッスよ」
メインストリートから少し外れた通りに三角屋根の尖塔が二本付いたコバルトブルーの木組みの建物があった。
装飾のついた吊り下げ看板にはRのロゴが。
木製のドアをレオが開けるとカランカランと店内に響くベルが鳴る。
店内を見渡すと、巨大な天然石の原石やカットされた水晶、天然石などが木箱に整列していてまるでパワーストーン店のような品揃えだ。お風呂のお湯を冷めにくくする水晶もここにあった。
他にも、電気屋のような一角には見覚えのあるドライヤーや、料理を保温するためのプレートが置いてあった。
そのスペースで一番目立っていたのは、巨大な冷蔵庫のような箱。冷蔵庫だとしたらこの電気が通っていない世界でどのように動くんだろうと気になって扉を開けて覗いてみると、中には氷もなく冷えてもいなかった。冷蔵庫に突っ込んでいた首を下げると、全身すっぽり黒いフード付きローブを被った水色の髪の幼女の店員がやって来た。
「いらっしゃいませー!」
幼女の水色の目はトカゲのような縦長の瞳孔が印象的で、それは人間にもエルフにも見られない特徴的な目だった。
「その商品に目をつけるとは、目の肥えたお客様です!」
レオが私に口パクで、辞 め と け と言っている。
「これって値段書いてないけどいくらなの?」
幼女店員が冷蔵庫の中にある三つの窪みに水晶をはめていくと、ブゥンと小さな音が鳴り、冷気が出て来た。
「こちらはレンタル商品で、この氷と風の魔法が込められた魔水晶をひと月ごとに交換するのです! 一カ月で大金貨一枚ですよ! いかがですか」
えーと……?
小銅貨=10円
銅貨 =100円
大銅貨=1,000円
銀貨 =10,000円
大銀貨=100,000円
金貨 =1,000,000円
白金貨=10,000,000円
てことは一ヶ月レンタルで十万円? 高すぎでしょ。
幼女店員の後ろでレオが両手の人差し指をクロスしてバツを作ってみせた。冷蔵庫を無理やり買わされそうになってるように思われたんだろうか、大丈夫! いくらするのか気になっただけだから。魔道具の水晶は、魔水晶っていうのね。
「あのー、魔水晶に魔法を込めることって誰にでも出来るんですか?」
「魔法が使えれば可能ですよ!」
「それならレンタルせずに本体を買って、その魔水晶に氷魔法を込めることが出来たら、レンタルするよりも安く買うことが出来るってこと?」
「魔水晶自体が消耗品なのです。魔水晶の規格が違えば作動しませんし、レンタル製品専用の魔水晶は販売しておりませんです、店にあるほとんどが一般的な魔道具に使うための魔水晶です」
ふーむ、規格の決まった魔水晶って電池みたいなものなのね。
「そうなんですねー、あの……、ちょっとお尋ねしたいんですが、このお店のマークについてなんですけど、『アルファベットのアール』ですよね?」
幼女店員の目がカッと開かれた。可愛いのにちょっと怖い。
「二階へご案内しますので、少々お待ちください! おーい、タマ!」
黒猫がこちらに向かって来て、ニャオーンと鳴いた後、「ネモフィラ様、お呼びでしょうか」と喋った。
「一階の店番を頼みます、私はお客様を二階にご案内するです」
「かしこまりました」
やっぱり喋った!黒猫はぴょんとカウンター席に飛び乗って腕をペロペロしている。どうやら異世界の猫は喋るらしい。
「喋る猫なんているんスね、はじめて見たッス」
私の耳元でレオがコソッと囁き、さっきの考えは間違いだったことが分かった。
「それでは上の階にご案内します」
螺旋階段を上がり、応接室の革張りのソファーに腰を下ろす私とレオ。
テーブルには占い師が使うような水晶玉が台座の上に置かれている。
ネモフィラはサイドテーブルに置かれた魔道具のコーヒーサーバーからコーヒーを淹れて私達に出してくれた。
「どうぞ、飲んでくださいです」
一緒に出された砂糖とミルクを入れて一口いただいた。レオは甘党なのか砂糖を三つ入れていた。
カップをそっとソーサーの上に戻すと、ネモフィラは両手を机につき、にゅっと顔を私に近づけて、トカゲのような目がギョロリと動いた。
何事かとレオは剣に手をかけていつでも抜けるように構えた。
「お客様! あなた様こそが我が主の探し求めていたお方に違いありません!」
「へっ? なんの話?」
「うちの店のロゴは、あなた様を探すために作られたものだったのです!」
?
その主さんも異世界人で、同郷の人をさがしてたとか?
「あなたの主さんって誰なの?」
「魔塔主の、リシュリュー様です!」
「「 ええっ 」」
驚きの声を上げる私とレオ。……急に大ごとになってしまった。
「全ての魔道具専門店において、『あるふぁべっと』と『あーる』について尋ねるものが現れたら、魔塔主様に連絡するのが最優先事項になってますです! 緊急自体です、あるじー、あるじー!」
ネモフィラが水晶玉に向かって伸ばした両手から水色の光が溢れたあと、水晶玉に男性の姿が映し出された。
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