第21話 炎の男たち

 ――――堂々たる体躯。身の丈190cmは優に超えているだろう。その大男は重厚な衣を何重にも着込み、目元は仮面で隠している。




 そして……一つ目巨人の右腕を断ったのは、片手に持つこれも重厚な、それも火炎を噴いている斧。




「――や、やはり……この怪人の弱点は火炎のようです! でも、あれほどリッチマンの攻撃が効かなかった相手の腕を、一撃で切断するなんて――――」





 ――一つ目巨人は咆哮こそ上げないが、痛覚はあるのか激しく身悶えして怯んでいる。





 火炎戦斧を携えた謎の大男は、徐にリッチマンに近付いて来る。





「…………生きて……いるか…………?」





 ――仮面の男はこれも分厚い、重低音の籠った声でリッチマンに語り掛ける。





「――え? あ、ああ…………けど、脚を氷漬けにされちまって――――!!」





「……それなら…………大丈夫だ――」





 仮面の大男はしゃがみ込み、火炎戦斧を持たない方の手をリッチマンの凍った脚に翳した。





「――これは――――!!」





 掌が光ったかと思うと、炎を灯し始めた。凍り付いた脚はみるみるうちに融けていく…………。





 ――やがて、凍傷は残るが、リッチマンの脚は自由になった。





「――助太刀……する。今のうちに体勢を整えろ――――。」





 ――仮面の大男は、敢然とリッチマンの前に立ち、一つ目巨人を睨み臨戦態勢を取っている。やや口数が少ないが、どうやら助けてくれるようだ――





 やがて、一つ目巨人は右腕を失いながらも逆上したのか、猛然と突進してくる――――!!





「――――ッ!!」





 ――なんと、大男は一つ目巨人の攻撃を受け止めてしまった。凄まじいパワーとタフネスだ。





「――ぬうんッ!!」





 ――そのまま力点をずらして一つ目巨人がバランスを崩したところを、さらにもう一撃火炎戦斧を振るい…………今度は残った左腕を切り落とした!!





 ――リッチマンは呆気に取られかけたが、すぐにはたと気付き、痛みを堪えながら立ち上がり、精神を集中した。






「ふうううう…………バイタル・チャアアアアアジッ!!」





 ――バイタル・チャージ。ヒーローとしてのエネルギーを集中することで、精神統一、及び自己治癒力を高め、自分の怪我を治す能力だ。






 すぐさま、リッチマンの凍傷まみれの脚は元の健常な脚に戻った。全身のその他の出血も止まって来た。






「――そこのおめえ、やるじゃあねえか!! そいつは炎が苦手らしいんだ。俺もやるぜ!!」






「……そう、か…………それは、都合が良かった――」





 ――状況をモニターで見ていたマユも、慌ててリッチマンに通信する。





「――――ヨウヘ……リッチマン!! 既にさっき30万円もの追加課金を済ませたばかり! もしかしたら……ぬしの応用次第で火炎の攻撃も出来るんじゃあないでありんすか!?」





「――そう思ってたとこだぜ!! ――念じろ……イメージしろ…………奴をぶっ倒すには――――炎の剣だッ!!」





 リッチマンから赤みを帯びた光が走ると――――リッチマンの手には、燃え盛る炎の剣が握られていた。





「――よっしゃあッ!! 俺の動きに合わせろ!!」






「……わかった――――」





 ――敵を確実に葬る為に、即席だが火炎戦斧を持つ大男と連携攻撃を仕掛けることにした――――





 2人、同時に一つ目巨人に向けて走り出す――――!!





 火炎戦斧を振りかぶる大男が前で、リッチマンは後ろだ。





 ――敵も抵抗する。殊更力を込めて、口から激しい冷気を吐いてきた!!





 火炎戦斧を振るう大男はまともに喰らい、氷漬けに――――なるわけもなく、火炎戦斧を前方に翳して、火炎のバリアを張っていた。





「――この隙を、待ってたぜ――――ッ!!」





 ――いつの間にか、リッチマンは天高く飛び上がり、視点で一つ目巨人を捉える。火炎戦斧の大男の背を踏み台に、大きくジャンプしていた――





「――――正義赤炎剣ブレイズ・ソード!! 微塵切りだっ!! でやあああああッッッ!!」





 ――その一瞬の間に、一つ目巨人の全身に真っ赤な閃光が何本も走った。






 そして、見る間に一つ目巨人は全身がバラバラに切れ、やがて塵となって消滅した。






 ――門番をとうとう撃破した――――。






「――――おっしゃあーっ!! 浄化完了だぜ!! ……おめえも大丈夫か?」






 ――命からがら。





 されど、強敵を斃した歓喜にリッチマンは湧く。謎の大男にもかぶりを振ってみた。





「――お前は、もしかして…………金を犠牲にして戦うのか…………?」






 ――何やら、リッチマンに力の源である金について訊いて来る。





「? ああ、そうだぜ。おめえも何か犠牲にして戦う…………もしかして、俺と同じヒーローか!?」






「――ヒーロー。言われてみれば……そうだな――――俺は、炎の力を使う度に……自分の衣服と、俺自身のカロリーを犠牲に、す……る――――」





「!? あっ、おいっ!! 大丈夫か!?」





 ――突然、大男はよろめいて、そのまま地に倒れ込んでしまった。





「――お前。察するに、安全に帰る方法……が……あるんだろ…………すまん。助けてくれ…………腹が減って、死にそうなんだ――――。」





 ――みるみるうちに、大男のヒーロースーツが、どんどんと焼けて消えていく。衣服を犠牲にしているのは本当のようだ…………。






「――他にも、ヒーローがいたなんて……」


「――きゃっ……裸になっていくぅ……」




 ――オペレーターのウーノとサーノが思わず呟く。初心なのか、目を塞いでしまう。






「――なあ、マユ!! 当然、こいつ連れ帰っていいよな!?」






「――う~ん…………もちろん。」






 ――急激な展開の連続にマユは唸って頭を抱えるが、取り敢えずそう判断する。






「よっしゃ。しっかり掴まってろよ。『リターン』!!」





 やがて、最初の階層からリッチマン、そして助太刀してきた謎のヒーローは姿を消した――――

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