第20話 赤熱の斧

「――――くそっ!! なんなんだ、こいつは――――!?」





 ――――敵地、怪人たちが巣食う異次元空間の奥に待ち構えていた、云わば門番は、これまでリッチマンが戦ってきた相手とは比較にならぬ強さだった。





 既に豚顔面の怪人ならば一撃で頭部を破砕出来たほどの威力を誇るリッチマンの拳や蹴りも、まるで効果が無い。





 その敵は、身の丈4mに迫ろうかというほどの体躯の一つ目の巨人。手に豪烈な棍棒を携え、時々口から、血も凍りそうな冷気を吐いて来る。そして動きも素早い。





「ドリャリャリャリャリャアッッ!!」





 巨人が棍棒でリッチマンを打とうとして来たところを何とか躱し、脇腹あたりに拳と蹴りの乱打を浴びせたが――――やはり手応えが無い。





「――うおおおっと!! くそっ…………こんな奴、どうしろってんだ――――!!」





「――ビビビビ……変身時間、残り5分。残り5分――――」





「――ちっ!! 解ってるよ、追加課金だ!! あいつを倒せるにはいくら金が必要だ、ストレージ!?」





「――ビビビビ……正義奮起率58%まで減少。現在の気力では課金額の上限、500万円まで課金しても確実に倒すことは不可能――――」





「――何だと!?」





「――上限!?」





 ――――突然の強敵に、そして『課金額上限』という言葉にリッチマンもマユもほぼ同時に驚いた。





 そう。課金額に上限があるなど、ヒーローを始めてからずっと赤貧であったリッチマンは、試したことも無かったので知りようが無かったのだ。





 しかも、生命の危険に本能的な恐怖か、力の源である正義奮起率は下がってきている。





「――――このままじゃあ、やべえ…………くそっ!! とにかく追加だ!! 30万円課金――――!! また撃滅不死鳥炎舞ゴールド・クルセイドで、一か八かだ!!」






 すぐさま追加課金をし、リッチマンはアップグレード――――街中で闘った怪人のボスを焼殺せしめた必殺の一撃に賭けた。全身から眩い閃光が走る――――





「うおおおおおッッッ!! 喰らいやがれッ!! 撃滅不死鳥炎舞――――ッッッ!!」





 ――強烈な光熱を伴って、リッチマンが纏う不死鳥のオーラが、一つ目巨人に炸裂する――――!!





 激しい爆発と、煙を伴う為、オペレーションルームが騒然とするほど状況が確認出来なくなった。皆、口々に状況を報告し合う。





「――リッチマンの技、確かに命中を確認!! し、しかし――――」





「――敵は生きています!! 今の攻撃でようやくダメージが通ったようですが……それでもいまだ健在!!」





「――――嘘だろ…………俺の全力の一撃が――――!?」





「――!! ヨウヘイ、危ないッ!!」





「――――ぐあっ!?」






 ――マユが言葉を掛けると同時に、爆煙の中から強烈な棍棒が飛び出してきて、リッチマンを激しく叩き飛ばした。咄嗟に全身をガードしたが、それでも強烈な痛みに悲鳴をあげて地面をゴロゴロと転がった。





 爆煙が収まってくると…………やはり一つ目巨人は健在だった。所々撃滅不死鳥炎舞の光熱で焼き焦げているが、ダメージそのものはそれほど深くは無いようだ――――





「――うぐっ…………マジ……かよ…………いってえ…………俺の攻撃が効かねえなんて――――」





 リッチマンは今の敵の攻撃で、ヒーロースーツのあちこちから染み出すほど出血していた。慌てて受け取った傷薬を使おうにも、敵は待ってはくれない。





「――やはり、リッチマンの主力である打撃は効果が無いようです! 熱……火炎による攻撃ならダメージを与えられますが……それも全力で撃ってもあの程度では…………!!」




 ――――マユが立ち上がり、リッチマンも含めて全員に指令する。




「――――もういい!! ヨウヘイ、すぐに撤退!! 逃げて!! 聴こえる!? 『リターン』!! 『リターン』と念じて逃げて!!」





 ――もはやこれ以上は無理と判断。ヨウヘイにすぐさま帰還するように声を掛ける――





「――ちっくしょう……仕方ねえ。リタ――――うおおあああッ!?」






 ――リッチマンが『リターン』で強制帰還を念じかけたが、今度は一つ目巨人は口から冷気を吐いてきた!! ――――たちまちリッチマンの脚が凍結し、動けない――――






「――ぐ……あ…………やべえ…………動け、ね…………やられる――――!!」





「…………ッ!! リッチマンに緊急帰還信号!! 早く!!」




 マユも切羽詰まってオペレーターに命じるが――――




「だ、駄目です!! 氷漬けにされて異次元空間から身体が離せません!! 緊急帰還の信号も受け付けません!!」





 ――無情に、それこそ熱を持たない一つ目巨人は、とどめの一撃を振りかぶる――――





「――そんな…………ヨウヘイーーーッッッ!!」


「――うわああああああッッッ!!」





 ――もはや万事休す。





 誰もが絶望し、次の瞬間の悲劇にその瞼を塞いだ。





「――――!?」






 ――だが、一つ目巨人の腕は棍棒を振り下ろして来なかった。





 何故ならば――――





「――――!? お、おめえ…………誰だ――――!?」





 ――一つ目巨人の棍棒を持つ右腕を、後ろから何者かが切断したからだ。





 新たに現れた人物は――――火炎を噴かす斧を携え、真っ赤な髪をたなびかせていた。巨人ほどではないが、堂々たる体躯。





 彼は何者なのか――――

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