第2話 俺

 いつものバーガー店に入った瞬間、俺は天野あまのを見つけた。

 天野はこの店の看板娘だ。少し茶色がかった前髪ぱっつんの黒髪にまばたきが少ない猫のような目。色白のふっくらとした頬と、小さな口とすっきりとした鼻筋が絶妙なバランスで配置されている超絶美少女だった。

「おっと、今日は当たりだ!」俺は思わず叫んでいた。

「え、何だって?」連れのモブ男を先にレジに向かわせる。もちろん俺が天野のレジに立つためだ。

「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」

「はい」

 天野の美しい声に俺は柄にもなく緊張を覚え始めていた。

「では、ご注文をどうぞ」

「ヒューストンバーガーのセットで」

「お飲み物はいかがなさいますか?」

「これで」俺は用意していた紙を天野に見せた。

 それには、彼女をデートに誘う文言もんごんを書いておいた。その返事をドリンクの種類で返すのだ。もしOKならコーラを、NOは二種類用意した。「彼氏がいるからダメ」はウーロン茶。「タイプじゃないからダメ」はジンジャーエールだ。それ以外にも即答できない可能性も考慮して「保留」というのも用意した。「保留」はオレンジジュースだ。

「承知しました。お会計は六百円です」

 天野はナンパに慣れているのか、顔色一つ変えずに答えた。

 俺は落ち着かぬ気分を抱えたままオーダーが揃うのを待った。

「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 俺はモブ男とテーブルに向かった。そして肝心のドリンクの種類を確かめる。

 蓋を通して見た瞬間からわかっていたが、それはやはりウーロン茶だった。

「……だよねー」

「ん?」

 モブ男の怪訝けげんな顔を無視して、俺は少し苦い味のするウーロン茶を飲みほした。

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