12 訣別の時②
「しつけられるのは、お前だよ、ばーか」
その瞬間、現れる銀色。お日様の匂いに包まれる。
ダレンの巨体が吹っ飛んで、地面に叩きつけられる。
「サイラス…」
「ルナ、ごめんね。助けるの遅くなって。怖かったよね。腕もこんな赤くなって。師匠にちゃんと自分でけじめつけさせろって言われてて。でも、我慢できなくて出てきちゃった。もういいよ。あの蛆虫は人間じゃないから、ルナが誠実に正面から話しようとしても伝わらないよ」
「この、くそ……お前いつの間に男なんて作って……いてっなんだこれ? 手と足が動かねぇ。えっ凍って…」
ダレンはサイラスにふっ飛ばされ、仰向けに地面に転がり、手と足に氷のような枷で、地面に括りつけられていた。
「あーこの村って魔術と無縁だもんねぇ。うん。お前動けるとろくな事しないから、手と足を凍らせた。凍傷で壊死するか、手足切り落とすかすれば、動けるよ。あ、どっちみち手足なくなるねぇ、ふふふ」
天気の話でもするみたいに呑気に残酷な事を話すサイラスに、さすがのダレンも顔色が悪くなる。
「おい、ルナ、なんとかしろよ」
「なんで、私がダレンを助けないといけないの?」
「は? だって、お前は……お前は……今まで俺がどれぐらいお前を助けてやったと思ってるんだ!!!」
「それは、村で疎まれている私を無理やり遊びに連れ出した事? 話しかけた事? それとも、痛い目や怖い目にあってるのをしばらく放置してから、恩着せがましく助けた事?」
「それは……」
「じゃあ同じ事をしてあげましょうか。その状況をしばらくニヤニヤして楽しんで、心が折れそうになる寸前で助ければいいのよね」
その言葉にダレンは顔色を白くさせる。幼い頃は無自覚だったかもしれないが、物心付いた頃には確信してやっていたに違いない。そして、それをルナに気づかれてるなんて思ってもいなかったのだろう。
「そもそも、ダレンが遊びに連れ出さなければ、助けられる状況になんて陥らなかったのだけど? 自分で陥れて、自分で助けるって、一体なにがしたかったのかわからないわ。本当に性格が悪いのね」
「それでもお前には、俺が必要だろ? 意地悪した事は謝るよ。これも俺の気持ちを知るための芝居なんだろ? 試してるだけだろ? だって、お前は俺の事が好きなんだから」
「うわ―――――――ぁぁ。サブいぼ出た」
ダレンから、十五年間で一番気持ち悪いセリフが出たと思ったら、なぜか返事はサイラスがした。同じ気持ちだけど。
「今までの話を聞いて、なぜそんな発想になるかわからない。私は小さい頃からずっとダレンが大嫌いだし、苦手。一生かかわりたくない」
なぜダレンは絶望したような、すがるような目をしてくるのだろうか?
「だって、俺ほどカッコよくて、剣も仕事もできるやつなんていないだろ? 村のみんなにだって好かれてるし。俺を嫌いなやつなんていないだろ?」
「それは、村のみんなには私にするみたいなクズな本性を見せてないからじゃない? あんな事されて好きになる女なんていないわよ」
「誤解だよ。俺はお前が好きだから、ちょっと意地悪をしただけで、俺はお前が嫌いじゃないから……」
「全然、会話が成り立たないわね。ダレンの事は隣の家に住んでいる他人だとしか思ってないわよ。嫌いだし、苦手。この気持ちは一生変わることはない」
「ほらねー蛆虫って脳みそも極小サイズだからさぁ、話通じないって。ルナ、言いたいこと言えたなら、もう行こう」
どさくさにまぎれて、ずっとサイラスに抱きしめられたまま、ダレンと会話をしていた。そのことに気づいて、頬が熱くなる。サイラスと目を合わせると、コクリと二人でうなずく。
話している間に、ダレンの手と足の氷は、サイラスが溶かしていてもう自由に動けるのだけど、ダレンは呆然自失となって、動かない。
「さようなら。あなたのことはきれいさっぱり忘れるから、あなたも私のことは忘れてね」
「未練がましくルナのこと探しにきたり、接触したら、こんどこそひねりつぶしてやるから」
「アビゲイルとお幸せに…」
その言葉を最後に、ルナとサイラスはダレンの前から消えた。
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