うちの、無学な親

第1話

うちの、無学な親

　こないだ、長女がうちに初孫を見せるために里帰りをした。その時、

「おとんて、大学の授業料を返せやら言えへんよなあ」

　言うた。どういうことか尋ねたら

「だって、同級生やら親に大学の授業料を月賦で返すように言われてる」

　とのことやった。不況やさかい、親の世代も大変なのやろう。子どもたちに、大学時代に支払うた学費分だけ、親に返すように求められてるようなねん。

　うちも政策金融公庫で借った子どもたちの学費の返済をしてるけど、娘に助けてもらおうなんて考えへんかった。

　そら、イイカッコをしたいせいもあるやろうし、塾の経営が順調なのもある。せやけど、それだけちゃう。

うちが小学生の頃、父が大病をして遠うで療養しとったことある。母は、一人で子ども三人の世話をしながら、靴屋さんを切り盛りしとった。当時は分かれへんかったけど、シングルファーザーになって、当時の母の大変さが分かるようになった。

　うちは大学時代に、夏休みにアメリカ旅行に行かしてもうた。こう書くと「金持ちのボンボン」て思われるかもわかれへんけど、うちの二人の姉は高卒やし金持ちの家庭やなかった。

　正直、お金をどないして工面したのか分かれへんかった。ただ、後で親戚からお金を借ったと分かった。うちの両親は、なんも言えへんかったけど勉強のできた一人息子のうちに期待してくれとったらしい。

この時、うちは酒やタバコと無縁の生活をしとったさかい、そうアンケートに答えたらリーダーズダイジェスト社が勝手に「ユタ州」のグループにうちを放り込んだ。そこから、後で１年間教師をすることになるユタ州との関りが始まった。

　その１年間で、うちは英語検定１級に合格できる出発点に立てて、今の生活がある。すべては両親がチャンスを与えてくれたお陰やねん。

　うちが塾を建てる時はわしの土地も家も担保に入れてくれて連帯保証人にもなってくれた。今思うと、もしうちが経営に失敗したら家も土地も失うリスクを背負うてくれたわけや。

　ほんで、亡くなるまでうちに学費の返済をせまらんと質素な生活のままだった。そやさかい、うちはわしの娘たちに返済をせまるなんて夢にも思われへんかった。つまり、親がわしにしてくれたこと基礎にあるわけや。うちが人格高潔やらいう話ちゃう。

　うちの母は中卒で、父は戦争もあって高卒や。小さな靴屋さんを営んどった。うちが大学を卒業して、塾をやる言うてもなんも分かれへんさかい黙って手助けをするしかなかったやろう。

　せやけど、わしが親になって分かんねんけど、無学な両親のような親にわしがなれたんやろうか。下手に計算高なっただけで、両親のような純粋な献身ちゅうものを失うとったように思う。

　うちの親は学が無うとも、うちより人として立派やったと頭が下がる思いだ。めっちゃ同じことは出来へんが、娘たちに少しでも親としてのあるべき姿を見して死にたい。それが、せめてもの亡き父へのお返しだ。

塾講師にありがちな、勉強の出来へん子ぉおちょくる傾向はうちにもある。頭の回転のにぶさや、粗暴な言動にイライラして怒鳴りつけることもあった。せやけど、なまじ勉強ができると、うちの両親のようになられへんような気ぃする。

　ええことばっかりちゃうねん。