私のアオハル日記

翳 暗鳴(かげ・あんな)

第0章

-第0話-

 修道院の朝は早い。今日はミリターニャの新しい家族が迎えに来ているので尚の事早かった。


「お世話になりました」

「新しい家庭で幸せに暮らしてね。バイバイ」


 職員と挨拶を交わしてから、ミリターニャはまとめた荷物を持って、新しい家族に駆け足でついていく。


「あの、何とお呼びすればいいですか?」

「パパと呼びなさい」

「宜しくお願いします、パパ」


 ミリターニャはなんだかむずかゆい感情を胸にいだきつつも、それでもついて行った。

 今日はすがすがしく晴れである。

 車の助手席に乗せられたミリターニャは、久しぶりに外の秋の景色を楽しんだ。


 途中、ミリターニャに似合う服を新しい父親に何着か買ってもらい、そのうちの1着をそのまま着て、次は靴屋でスニーカーとパンプスを買ってもらった。

 ミリターニャはドキドキする。

 これからどんな家庭で暮らしていくのかを。


「ターニャには明日から学校に通ってもらう。勿論、寮生活が始まる。覚悟しとけ」

「え? じゃあ、制服は?」

「ミリターニャが通う学校に制服はない。好きな服着て学校に行けば良いらしい」

「そんな学校もあるんですね」


 夕方にはお城に着いていた。

 ミリターニャは新しい父親に手を引いてもらいながらおぼつかないあしどりで歩いてポーチの下をくぐって玄関に入った。


「学校はいつからですか?」

「今日は家に居て良い。明日からだ。寮は今日の夜からだ」


 リビング・キッチンに着くと、ミリターニャの新しい父親はお茶を淹れてくれた。名はロドリゴ=フランチェスカというらしい。


「いいか、ミリターニャ。今日からお前はミリターニャ=フランチェスカだ。覚えておけ」

「はい!」


 ミリターニャは赤い革製のソファーにちょこんと座り、温かい紅茶をティーカップでちびちびと飲んだ。


「その飲み方は修道院で刷り込まれた教育かもしれないが、これからはもっと上品に飲め。我が家の品位に関わる」

「わかりました。パパの飲み方を真似します」

「それが手っ取り早いだろう。まぁ、すぐ慣れるさ」


 紅茶を飲み終え、トイレも済ませるといよいよ再び車に乗せられ、学校の寮前まで送ってもらう。


 ロドリゴは寮母さんにあいさつしてミリターニャの部屋まで案内されると、車から荷物の移動を手伝ってくれた。


「じゃあな、ターニャ。卒業目指して頑張れ」

「頑張ります!」


 ミリターニャはミリターニャ=フランチェスカとして第二の人生を歩むことになる。 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る