春堕ちる庭

章乃 深白

序章

Prologue




「──ね、あきくん」

「なに? はる」



 放課後の教室。

 あたしの太ももに頭を預けて手遊びしてた彼女が、ぽつりとあたしを呼んだ。

 遠くに聞こえる部活生の声、楽器の音。ふたりきりの教室。いつもこうしてこっそり会って、時間が許すまで手を繋ぎ合う。


「もし世界が滅びるなら……そのときはぼく、あきくんの隣にいたいな」


 なんて突飛な。

 けどあたしは彼女の髪を指で梳いて、触れるだけのキスをして、笑った。


「じゃあ……最後は、こうやってふたりでいよう。お菓子とか持ってきてさ」

「うん」


 決して綺麗で美しいばかりじゃないあたし達は、こうして確かめ合うことでしかこの世界で上手く呼吸ができない。

 何ひとつ不確かなのに、こうして触れ合った体温だけは確かにここにあるのだ。



 だからきっとあたしは、彼女がいなくなってしまったら、生きていけないと思う。



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