黎明開きしウィッチクラフト
@Saint-Germain
第1話
「ひでぶっ!?」
ここは異世界ローデンス。時は神代、神の時代。数多の神々が別れて争い、天を焦がし地を溶かし、天変地異に地殻変動など日常茶飯事だった時のこと。空から一人の少女が墜落して来た。見事に地に突き刺さった彼女の名前はグレース。時空神謹製の疑似神。その初号機である。
「あいたた・・・、なんで私がこんな目に…。ああもうっ!あのバカ弟妹どもがっ!なーにが私達は姉上より優れているだ! 知能も身体能力も私以下の癖にちょっと特殊能力があるからって調子に乗りやがって! それで死に際の父上から権能引き継いだら追放!?本当にふざけるなっ!次合ったらぶっ殺してやる!」
頭を引き抜くなり怒り顔でぎゃーぎゃーと捲し立てるグレース。しかし、辺り一面は夜の草原。星が煌めく夜に、虚しく声は響き渡るだけだった。
「虚しい…。それに、どうしたものかな。街の場所も、ここが何処なのかも全然わからないや」
そう、彼女は今の今まで神域で生活して育ってきた身。当然地上の事など一切知るわけが無かった。宛もなく彷徨うしかない状況に、グレースは軽く絶望していたが何時までも留まるわけにはいかない。
「とりあえず飛ぶ…。痛ッ!痛い痛い!何かもう、全身痛い!後で痛みが来るやつたコレ!」
飛行しようとと意気込んだのも束の間、落下の痛みと権能をぶち込まれた時の反動とかが一気に襲いかかり、ビクンビクンとのたうち回るグレース。見た目は大体十四才くらいに見えるが、美しい銀髪に蒼く透き通った瞳。年不相応に豊かに育った体。しかしその身には摩擦熱で燃えて襤褸切れと化した布しか身に纏っていないのでぶるんぶるんと胸が躍動しているが、本人は大真面目に痛さに悶絶しているので、割と凄い顔をしている。
「魔力はほぼからっきし、体力もあまりないし腹もペコペコ。歩こうにも体は痛むし何かもう、一回休まないと駄目だ。とりあえずここでいいから寝るかな…。でも寝たら危なそうだし……、はぁ、とりあえず痛くても歩こう」
そうしないと始まらないし、死にたいというわけでもない。ひとまず休息を取ろうと、疲れた顔を全力で引っ込めてかなり無理のある元気そうな顔を作って歩き始めた。
「うぎゃあ!」
しかし、初っ端からつまずいたグレースなのであった。そして頭からぶっ倒れ、かなり強く打ったのか、そのまま気絶するかのように眠りに落ちてしまった。
「まだ頭痛がする…。でも傷はある程度治ってるか。じゃあ、明るい内に歩こう」
翌朝、目を覚ましたグレースは割と元気になっていた。疑似神は不老不死の種族。怪我の治りも凄く早い。流石にダメージは大きかったため、まだ殴る蹴るといった荒事は中々キツイが、歩いたり走ったりする程度はできそうだ。心なしか表情もそれなりに明るい。
「おーい、誰がおらぬか…。助けてくれ」
遠くから、何やら声が聞こえた。人の声であることは間違いないが、関わるのは少し面倒だと思った。
「・・・・・・私は何も見ていない。いいね?」
それはそれとしてしばらく歩いていると、地面から頭を生やした黒髪の少女が助けを求めていた。
だが、華麗にスルー。何があったのかは知らないが、あんな恰好で埋まっている時点で厄介事に巻き込まれることは間違いないというグレースの判断だ。明るかった表情は一瞬で苦虫を嚙み潰したようになり、ちっと舌打ちもしている。
おまけに、種族はグレースと同じく疑似神。助けて敵対されたらいきなり殺されるという展開もあり得なくはない。先程、疑似神は不老不死だと言ったが、あれは通常の場合。疑似神は神や同じ疑似神同士なら殺すことは可能なのだ。そして今のグレースは相当弱体化していた。
「おい! 無視をするでないそこの女子おなご! 見たところお主は儂と同じデミゴッドじゃろ? 頼む、儂もまた故郷を負われた身じゃ。信じられんかもしれぬが、助けてはくれんか?」
少女は立ち去ろうとするグレースを何とか引き留めようと必死に声をかけ、体が動かせない分頭をぶんぶんと揺らしている。
「助けた瞬間に腹を刺したり、喉元掻っ切って来たりしないかい? あとは魔術使ってきたりとか」
立ち止まったグレースは怪しむようにそう聞いた。何とか魔力弾程度ならば撃てそうなので片手に魔力をバチバチと迸らせ、少女の顔に狙いを定めている。念の為の保険というやつだ。
「恩人に何故そのような事をせねばならぬのじゃ! 儂は冥界神ルヘスが創りし疑似神が一番機。名はルナという。故合って母上の権能を託され、このような所に打ち上げられたもの。お主は何と申す」
少女─ルナはそれに臆することもなく、毅然とした様子。そのまま自己紹介を済ませ、グレースにもそれを促してきた。
「私はグレース、時空神ノロクに作られた疑似神の初号機。父の死に際に無理やり権能押し付けられて、多分それを妬んだ弟妹達にボコられて襤褸切れ一枚で落とされたんだ」
ルナはやや悲しげな顔をしている。同情したわけではないが、心底気の毒に思っているようだ。
「それは気の毒じゃの…。儂で良ければ話は聞くが、ひとまずここから出してくれんか? 眼前に虫が這っておるのを見続けておると軽くトラウマになりそうなんじゃよ。虫は苦手じゃし」
「おりゃあ!」
グレースにとって自分の境遇と重なるところもあり、何よりグレースも虫嫌いだったので一気に引き抜いてあげた。
ルナは着物と呼ばれる衣装を身に纏っており、グレースよりよっぽどマシな格好をしている。二人並べば奴隷と主人と言ってもなんらおかしくないだろう。
特殊な素材で織られている布を使っているのか、着物には汚れ一つ無い綺麗な物というのもまたそれに拍車をかけているようだ。
「恩に着る。礼を言うぞグレース。おぬしは儂の恩人じゃ!」
ぺこりとお辞儀しつつ礼を言う見た目だけ少女のルナ。デミゴッドならそれなりに年寄りなのは間違いないので、見た目だけ少女。ただしグレースにも刺さる言葉だ。
「うん。どういたしまして。じゃあ、私はコレで失礼するよ」
グレースは礼を返しそのままスタスタと歩き去ろうとしたが、ルナがグレースの腕を掴んでそれを止めた。引き剥がそうとするも力が強くて剥がれない。
「のう、ここはともに征かぬか? その方が何かといいと思うぞ? 例えば、お主が儂の奴隷と言う事にしておけば、その格好でも何も言われまい」
ふんす、と得意げに鼻を鳴らして明暗とばかりに言うルナだったがグレースの表情は微妙な顔。
「奴隷って・・・。せめて孤児とかにして欲しいけど、それはお互いにそうなんじゃないの?」
確かに一見するとそう見えるのは確定的に明らかなのだが、いきなりの奴隷呼ばわりは普通に引くグレースだった。
「うむ…そうか、実年齢は兎も角儂等は見た目だけは若いからのう。それに、この服は多少目立つ上に場違いじゃろうな。」
「とりあえず、服はいるよね。私なんて実質全裸だし」
『ルナが仲間になった!』というのはさておき、とりあえずの目標は街に行ってお金とかの調達。神域とは違って一々面倒だが郷に入れば郷に従うしかないようだ。
「ふふっ。よし。じゃあ行こうか。当面、服は賊がいたら賊から追い剥ぎするとかで何とかしよう」
「それはよいのう。サイズが合えばいいんじゃが」
グレースは静かに、ルナは高らかに笑い合い二人は歩き始めた。神々の争いと身内への恨みは一旦忘れ、まだ見ぬ世界に胸を高鳴らす。先に待つのは哀しみ悲劇のオンパレード。その時はハッピーエンドでも時が過ぎればビターエンドが関の山。それでも彼女達は征く。
何故なら、結末は悲劇でも過程に楽しみはある。そして、それらも時が過ぎれば語り草。ならば酸いも甘いも噛み分けて、征く道全てを楽しんでやればいい。それだけの話なのだから。
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