第20話 ユキ

これが全部僕の妄想でなければ、という前提はあるけれど、この子は僕より一歳年上で「ユキ」と言う名前だった。


お互いにまともに口で喋れないから心の会話の検証はできないけど、名前だけは母達の会話から本当に「ユキ」であることはわかった。


僕達は初めての経験に興奮して、直感的な会話をした。植物とか見えない存在と会話することはいつもやっていたけれど、人とこんなにはっきり意思疎通するのは初めてだった。


いつも一緒にいる母とは何となくわかり合えているような気がするけど、母はこんなにはっきりと僕の心の声を受信することはできなかったから。


『最近、何かおもしろいことあった?』

僕は尋ねてみた。僕はおもしろいことが大好きなんだ。


『おもしろいことなんてあるわけないよ。毎日同じことの繰り返しだもの』

ユキは言った。


『そうなんだね。じゃあ、今日のことはいつもと違ってすっごくおもしいよね』


『確かにすごくおもしろい』

ユキは嬉しそうにした。彼女の表情は少し柔らかくなったように見えた。楽しい空気が伝わってくる。彼女の心が明るく弾んでいるのがわかる。


『じゃあ、最近何か嬉しいことあった?』

僕はまた尋ねてみた。僕は嬉しいことを聞いたら嬉しくなるから。


『そうね。キヨトとこうして話せたことが嬉しい』


『僕も嬉しいよ。ありがとう』


ユキの身体が明るい光で包まれているのを感じる。

ユキ、僕、今すっごく楽しいよ。会話できるってこんなに楽しいことだったんだね。


『ねぇ、キヨト。最初に見ちゃったごめん、って言ったけど、アレは何を見ちゃったの?』


あ、それ聞いちゃう? と思ったら、また混線して意思疎通出来なくなってしまった。わざとではないけど、人の心の中を覗き見しちゃったみたいで申し訳なく感じた重たい気分が意思疎通を妨害した。でも、言い辛いけどちゃんと正直に伝えよう。


僕は気を取り直して、また意識を合わせて、言葉をユキに送信した。

『ユキの大きな出来事とか心の中の嬉しいとか悲しいとか色んな気持ちがわぁーっと入ってきて、見えちゃったんだ。でも、全部じゃないと思う』


申し訳程度に全部じゃないと付け足した。本当のことだし、不安にさせたくなかったから。


『そんなことあるんだ。それで、キヨトはそれを見てどう思ったの?』


ユキの不安な色が伝わってきた。水色にグレーが混じった色をしていた。ごめんね。自分の内面を勝手に覗かれたりしたら誰しも不安になるだろう。


『ユキは一生懸命頑張ってるって思ったよ。それに純粋な心を持っている素敵な子だってわかった』


その時、ユキのオーラがパァーっと明るく強い光を放った。安心した、嬉しい、って全身で伝えてくるような綺麗な光の色をしていた。


『キヨト、ありがとう』


僕はちょっと驚いたよ。僕の言葉でこんな風にキレイな色に変化することがあるなんて、なんだか嬉しかったな。

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