第5話 閃いたこと
最近急に閃いたことがあった。
この目が見えたらもう少し世界が広がるんじゃないかな?
目が見えないのはもしかして単に近眼が進んじゃっただけなんじゃないかと気付いた。これって麻痺とは関係ないんじゃないだろうか。
今さら何を言ってるのかと思うよね。
僕もそう思うよ。
でも、よく考えると小学生の時は確かにもう少し見えていたんだ。僕が物の名前をちゃんと理解できているのもこの視力があったからだ。
徐々に目が見えにくくなっていったから、何となく慣れながら、自然と受け入れてしまっていた。視力以外の違う感覚が強くなって、カバーすることもできていた。僕の目が見えていようといまいと表面的には日常生活は変わらないから、周りにも気付かれなかったのかもしれない。
でも、単なる近眼なら普通の人にも起きることだよね。これが眼鏡とかでもっと見えるようになったら、画面を見ながら指先でパソコンの操作ができるかもしれない。そしたら、文章で言葉を伝えられないだろうか。
僕は突然思いついたこのアイデアにものすごくワクワクした。こんなに気持ちが高揚したのは生まれて初めてかもしれないというぐらいだった。
母は僕の様子がいつもと違う、ということだけには何となく気付いてくれた。
僕の唯一動かせる指をトントンと動かす。
トントン
『ねぇ、母さん、僕の目、見えるようになるかもしれない』
トントントン
『そしたら、パソコンの画面を見ながら、この指で文字を打てないかな』
トントントントン
『どんなに時間がかかってもいいからやってみたいよ』
はぁ……指の動きだけじゃあ、全然何も伝えられないよ。
しかもこんな重要なこと考えてるのに僕の身体はまた言う事聞いてくれなくて、
お母さんが僕の涎を拭いてくれた。そして「お腹がすいちゃったのかしら」と言った。全然違うんだけどなぁ。
この考えをどうにかして、母や病院の先生に伝えようとしたけど、方法が見つからない。
僕が何かいつもと違う反応をすると、身体の不調で苦しんでるとしか思われなくて、見当違いな検査をされてしまうことも多い。そんな風に間違えちゃった時も「おかしいね」ってみんなと笑いたいんだけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます