聖夜(男性視点)

「先輩のことが好きです。私と付き合ってください」


 それはホワイトクリスマスに相応しい、ありきたりだけどスマートな告白だった。


 文芸サークルの後輩・穂香ちゃんが僕に想いを告げてくれたのだ。


 穂香ちゃんは結いでいない長髪と眼鏡が似合う大人しい女の子で特に目立つようなことはしないけれど、女性に飢えた男たちが彼女を狙っているという話をよく耳にする。つまりモテモテなのだ。


 そんな彼女が僕みたいな何も価値がない日陰者をどうして好いてくれたのだろうか。穂香ちゃんはきっと世間から逸脱した物好きといったところだろう。


 そもそも僕は穂香ちゃんに気に入られるようなことをした覚えがない。同じ部室で本を読む、ただそれだけでどうして僕のことを好きになるのだろう。もちろん顔には自信がない。


 だから穂香ちゃんからクリスマスデートに誘われたときは驚いた。


 そして今、海辺のデッキで告白されているわけだ。


 なんて答えればいいんだろう。僕は穂香ちゃんのことが好きなのか、いや正直好きでも嫌いでもないな、ああでも誰かに求められることは悪くないな、というよりそもそも僕は人を選べる立場じゃないのにどうして身の程も知らない考えをしているんだ。ああ穂香ちゃんって改めて見ると可愛いな何かテレビで見た女優さんみたい、まずい沈黙しすぎて穂香ちゃんがプルプル震えている、せっかく勇気を出して言ってくれたのに。あ、穂香ちゃんの頭に雪がちょっぴりついている、可愛いなあ。


「あ…あの…先輩…?」


 穂香ちゃんは目を潤ませて僕の顔を覗いた。声も震えている。


 いけない。どうすればいいか分からなくて現実逃避をしていた。


「あ、あぁ。そうだね。付き合おうか」


 当惑の様子を滲ませつつそう答える。我ながらぎこちない返答だ。


 そんな脳内反省会をしている僕をよそに彼女の顔がパアァと綻びをみせた。


「ほんと⁉ 私、いまとっても嬉しいです!」


 穂香ちゃんは僕の手を包むように握った。その手には暖かさがこもっていた。


 女の子の手ってこんなに柔らかいんだ、そういえば生まれてこの方女性に触れたことがあるのはお母さんぐらいだったな、これって握り返していいのかな。このまま握ってたら僕の手は汗まみれになって彼女の手にまで浸透してしまうわけだけど。とにかく僕は興奮した。


「そ、そんなにかい? そうか。何だか僕も嬉しいよ」


 僕は彼女の言葉よりもボディタッチの方に夢中であまり聞いてなかったので適当に相槌を打った。


 僕たちは手をつないだまま、あてもなく歩く。


 すると穂香ちゃんからポツリと一言。


「これから…その、私の家に行きませんか?」


「…え?」


 つい聞き返してしまった。


 それはそういうことができるって期待していいんだよね、え、僕コンドームとか持ってないんだけど大丈夫なのかな、買いに行かなきゃ、というかセックスってどういう過程ですればいいんだ、前戯ってよく聞くけど何すればいいの?先輩なのにカッコいいところ見せられずに萎えさせちゃうかも…そういえば穂香ちゃんっておっぱいどれくらいあるのかな?揉んでみたい。というか穂香ちゃんは処女なのだろうか、何だか慣れてそうだけど。かっこ悪いけどできればリードしてほしいな。


「ほ、ほら! 雪が降って寒くなってきたわけですし! ずっと外にいたら風邪ひいちゃいますよ!」


 穂香ちゃんは少し照れた様子で取り繕った。


 そうだ。僕が期待しすぎているだけなのだ。付き合って当日にするものではないのだろう。


 僕は静かに頷いて、僕達は彼女の家へと向かった。


 スマホに目をやると充電もあと十パーセントだ。少し充電でもさせてもらう。

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