【短編】フナのオモイ

お茶の間ぽんこ

フナのオモイ

 わたしは赤いさかなになりたい。赤いさかなはキンギョというらしい。


 わたしがここの水に入ってからもう三年。入ったばかりはわたしいっぴきだけで、年をとったおじいさんのニンゲンにエサをいっぱいもらってうれしかった。


 でも、ついこのまえから、あの赤いさかなが入ってきた。


 あのおじいさんのニンゲンではなく、おさない子どものニンゲンがわたしたちにエサをくれた。


 その子どもは赤いさかなにばかりエサをあげた。子どもは赤いさかなにいっぱいエサをあげるから、わたしは赤いさかながたべのこしたエサをたべることができた。でも、子どもは赤いさかなばかりを見ているような気がしてかなしくなった。


 どうしてわたしを見てくれないのかな。わたしはかんがえた。そして気がついた。


 わたしと赤いさかなは色がちがうんだ。


 わたしは黒。あのさかなは、赤。


 黒は、めずらしくない色。赤は、にんきものの色。


 わたしも赤いさかなになりたい。でもどうしたらなれるかわからなかった。


 あきらめようとしていると、下にころがっている石の中に赤い石を見つけた。


「ひらめいた!」


 赤い石にウロコをこすりつけてウロコを赤くしよう。


 わたしは赤い石にウロコをこすりつけた。


 スリスリ、スリスリ。


 でも、ウロコが赤くなるどころか、きたなくなってしまった。


 わたしはがっかりした。


 そしてがっかりしたきもちが、いかりのきもちにへとかわっていった。


「どうしてわたしががんばってるのに赤くなれないの⁉」


 なにかにこのいかりをぶつけたくなった。


 わたしがおこっていると、あの子どもがまたエサを赤いさかなにあげていた。


 赤いさかなはうれしそうにエサをたべようとしているのを見て、わたしは赤いさかなのエサをぜんぶ、わたしだけでたべてやった。


 いっぱいエサがあったけど、のこさずにたべた。


 赤いさかなはビックリした目で見てたけど、そんなことは気にしない。


 いっぱいたべて、わたしはあまりのエサのおおさで、きぶんがわるくなった。


 わたしはすみっこでじっとすることにした。


 ずいぶんじかんがたったけど、きぶんがよくならなかった。


 もしかしたらこのままずっとうごけないままなんじゃ…。


 わたしはこわくなって目からなみだが出た。ワンワンとないた。


 すると、赤いさかながこっちに来た。


「どうしたの?」


「さっきエサをいっぱいたべちゃって、うごけなくなったの」


「どうしていっぴきだけでエサをたべたんだい?」


「だって、あなたがうらやましかったから」


「どうしてぼくのことをうらやましくおもうの?」


「それは、あなたが赤いさかなだからよ」


「赤いさかながいいことなの?」


「赤いさかなはにんきものじゃない」


「そんなことないよ」


「うそよ。だってニンゲンはあなたしか見てない」


「わかった。赤いさかなはみんなにちゅうもくされることについては、きっとそうだろう。子どものにんきものかもしれない。でもきみ、フナだってすごいってことをわすれないでね」


「それってどういうこと?」


「ぼくたちキンギョは、きみたちフナがへんしんして生まれたさかななんだ。だから、ほんとうはきみたちフナの子どもにあたるってことさ」


「ほんとう?」


「そうだよ。黒いさかなのフナがいなかったら、赤いさかなのキンギョはいなかったことになるんだ。ぼくはきみのことをすごいとおもってる。だから、色だけできめつけるのはよくないんだ」


 わたしは赤いさかなにほめられて、うれしくなった。


「キンギョさん、ありがとう」


「いいんだよ。生きものはみんな、だれにもないすごいトクチョウがあるんだ。それは気づいてもらえないこともあるかもしれないけれど、じぶんは気づいてあげてもいいんじゃないかな」


 わたしの中にあったいかりのきもちやかなしいきもちが、すべてきえていった。


 わたしは、わたしでよかったんだ。



 つぎの日にはわたしはうごけるようになっていた。そして、おじいさんのニンゲンと子どものニンゲンが二人で、わたしたちにエサをくれた。


 おじいさんは子どもになにかいうと、子どもはわたしもしっかりと見てくれて、わたしにもエサをくれた。


 わたしは、黒いさかなでよかった。いまは、ただ、そうおもう。

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