第51話 温かな誓い
胸に手を当てて語りかけるユウキ。ソラはその様子を、少し羨ましそうに見ていた。
「心の中にたくさんの転生者がいる、かあ……本に出てきそう。いいなあ、ユウキ」
「あはは。天使様が言うには、神様が無理矢理押し込んだってことらしいんだけど……うん、僕はすごく感謝してる」
「いいなあ」
本気で羨ましそうにするソラ。サキも同じように羨ましがっていたけれど、この銀髪少年の場合は少し中身が違った。
「それだけたくさんの転生者がいるってことは、色んな世界のお話相手がいるってことだよね……。ボクだったら一日中聞いてしまいそう」
なるほど、物語好きのソラだったらありえるかも――とユウキは思った。
想像してみる。
「ほどほどにしないと、アオイやヒナタに心配されるかも。誰もいないところでずーっと話しかけることになりそうだから」
「う……。そう、だね。もしそうなったら、気をつける……」
ふたりの少年は苦笑した。
『さて、そろそろいいか? 本当に帰るぞ』
チロロが立ち上がる。ユウキたちも後に続いた。
歩きながらソラに言う。
「これからは、ソラからもたくさん教えてもらおう」
「ええっ? ボ、ボクが教えられることなんてこれ以上ないよ? ほんとに」
「そんなことない。さっきの話、すごく勉強になったもの」
「……勉強。勉強と言えば」
銀髪少年が視線を外す。
「今日のこと、やっぱりミオには怒られるかなあ」
「えっと。魔法を使ったことはここだけの話にしようと思うんだけど。それでもダメ?」
「ダメじゃない」
ソラは首を横に振った。困ったように眉は下がっているが、表情はどこか晴れやかに見えた。
「いつもさ、魔法を使った日は気分が重かったんだ。ミオに怒られる――ううん、違う。きちんと決まりを守ってるミオに悪いことをしたんじゃないかって、どうしても思っちゃうんだ」
それが顔に出て、いつもすぐバレるんだと銀髪少年は語った。
「でも、今日は違う感じ。ユウキのおかげで、自分の魔法に少し自信が持てたからかな。魔法は、それだけで悪いものじゃない。怯えて付き合うのは、なんだか魔法に失礼だ」
「ソラらしい言い回しだね」
「そ、そう? ユウキの心の中にたくさんの転生者さんがいて、彼らが魔法を使ってるって考えると、そう思えたんだ」
なるほど、とユウキはうなずいた。胸元に手を当てる。
ユウキの力、ユウキの魔法は、すべて善き転生者たちの助力あってこそだ。
彼らを悪いもの、怖いものと考えることは、ユウキにはできない。
助けになってもらっているのに、こちらから彼らを遠ざけるのは、ソラの言うとおり、失礼なことだろうと思える。
今日は、本当に色々ある日だと思った。
いろんな子との出逢いがあっただけじゃない。魔法との付き合い方、考え方まで学ぶことができた。
もふもふ家族院の少年院長は言った。
「ソラ。それにチロロ。聞いて。僕、ふたりに誓います」
「え?」
「これから先、転生者さんたちに恥じないような院長先生になります。魔法も、転生者たちの迷惑になるような使い方はしません」
「ユウキは真面目だなあ。そういうところ、ちょっとミオに似てるかも」
ソラは口元を緩めた。
「ボクはミオの厳しいところはちょっと苦手だけど、ユウキならミオともうまくやれると思う」
「うん。頑張るよ」
『……して? 具体的にはどうしていくつもりだ、少年院長よ』
チロロに詰められて、ユウキは口元に手を当て考えた。
そして、「これだ」と手を打つ。
「今日から毎日、転生者さんたちに挨拶と感謝を言う! おはようございます、おやすみなさい、ありがとう――って!」
『ふっ。まあ、そなたがそれでいいなら、そうすればよかろう』
まるで父親のように穏やかな口調で言い、保護者フェンリルはふたりの前を歩く。
なにかまずいことでも言ったかなと首を傾げるユウキ。そこへ、胸元が温かくなる『いつもの感覚』があった。
――あなたとお話できることを、私たちも楽しみにしているわ。
「……っ」
「ユウキ?」
「だいじょうぶ。転生者さんたち、やっぱり優しいなあって思っただけ」
上機嫌で、ソラと肩を並べた。
未来がある。それを見守ってくれる人がいる。それがどれほど幸せなことか、ユウキは改めて噛みしめていた。
――そろそろ、日が傾く頃だ。
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