第33話 グレイな頭

 お昼前、二人は海辺高校の裏門近くで桜の木を見上げていた。三咲が言った通り、花は咲き始めの様相だ。


「やっぱり白い桜だ」

「似てるよね、接ぎ木桜と」

「うん。でもさ、絵梨はあの接ぎ木って、伐採した桜の枝とか言ってなかったっけ?」

「そうよ。伐採した時にお母さんが何本か、形見にって貰った枝だった」

「じゃあ花はピンクだったんじゃないの? 確か」

「だよね」


 二人は考え込む。なんで白い花になっちゃったんだ? 接ぎ木したらそうなるのか? それとも…


「城先生が接ぎ木したからかな?」


 絵梨は思い切って言ってみた。三咲は絵梨をじっと見つめる。


「あたしも、実はそうかもって思ってた。あの人、本当に先生? 仙人じゃないの、実は」

「仙人ってお茶とか飲むのかな」

「さくらティーも飲んでたよね」

「取り敢えず、座って考えようか」


 二人が向きを変えてベンチに向かおうとしたその時、桜の木の向こうから一人の老人が、箒を手に歩いて来た。


「あっ!」


 三咲が振り返る。釣られて絵梨も振り返った。


「じょ、城先生!」


 老人が驚いて二人を見る。三咲は目をしばたかせた。


「あれ…髪が…」

「白くない…」


 三咲のフレーズを絵梨が引き取る。老人はにこやかに二人に声を掛けた。


「何かご用ですか?」


 三咲が慌てる。こ、声は城先生だ。


「あのっ! 城、先生、じゃないです…よね」

「城先生?」


 老人は微笑んだ。


「ああ、海高の城先生のことですかな。あれは兄貴ですわ」

「あ、兄貴?」


 二人は仰け反る。お、お兄さん? 老人は続ける。


「双子なんでね、そっくりなんですわ。ここで掃除しとると時々卒業生の人にも間違えて声掛けられますわ」


 そ、そう言うことか。そう言うことがあるのか。そりゃ間違えられるよ。あーびっくりした。絵梨は胸を撫で下ろす。三咲もホッとしているようで饒舌に磨きがかかった。


「髪の色はお兄さんが真っ白で、弟さんはきれいなグレイなんですね。どっちも素敵です!」

「あはは。それは有難う。年寄の頭をお嬢さんに褒められるなんてな、兄貴もきっと天国で喜んでいますわ」


 て、天国? 新たな衝撃が二人を突き抜けた。


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