第10話 下見板張り

「絵梨ちゃん、ちょっとこっち来て、見てみて」

「はい?」


 カンナに並んだ絵梨は同じように立って外壁を眺めた。カンナは正面の下の方を指さす。


「お店の今の外壁ってね、下見板張りって方法で、水平方向に板をずらして組み上げてあるでしょ、鎧みたいだから結構強い筈なのね。だけど何だか、あそこら辺が歪んでいるように見えるんだけど、絵梨ちゃん、どう見える?」


 絵梨も目を凝らす。そう言われれば、水平方向の板が持ち上がるように、緩やかにたわんでいるように見える。


「ですね。下がるなら判る気もしますけど、上がるって何でしょう?」

「うーん」


 カンナがその場所へと歩いてゆく。そして途中で急に立ち止まりこちらを振り返った。


「絵梨ちゃん、スコップみたいなの貸してもらえる?」


 スコップ? 絵梨は慌てて店の中からプランターで使う園芸用のスコップを持って来た。カンナは外壁が撓んでいる地点の下の地面を掘っている。絵梨は屈んでそれを見守る。


「どうしたんですか?」

「うん、これ、もしかして…」


 絵梨はゾクッとした。もしかして、カンナさん死体を探してる? み、見たくない…。 


「あ、あった。やっぱり」


 カンナは振り向いた。絵梨は瞬きも出来ない。


「やっぱりって…もしかして、し、死体ですか?」

「なんでよ」

「だって、桜の根元には…って言うし」

「ああ、あれ。昔の小説でしょ? そう言う面妖な話って、私も大好きだけど、実際にあるとしたらここより、ほら、木の下の横らへん。何か盛り上がってるよね。ああいう所じゃない?」


 絵梨は額に皴を寄せて桜の木の下を振り返る。やだ…、この前白髪の変なのがいた場所じゃない…。カンナは絵梨の表情を見て笑った。


「あはは、冗談よ。そうじゃなくて根っこよ。桜の根っこ。根上がりって言ってね、根っこが太くなるとその上の地面を持ち上げるの。それで基礎も持ち上げられて板も歪んだんじゃないかな。基礎がヤバいかも知れない。ここからじゃ見えないけどね」


 絵梨はホッとした。いや、基礎がヤバいってホッとする話じゃないか…。


「じゃあどうするんですか?」

「まずは根っこを撤去して、あの部分の基礎を確かめる。場合によっては基礎を修復ね」

「ええーっ?」

「自然は時々こういうこともやらかしてくれるのよ。桜とも共生したいところだけど、建物は基礎が大事だからね。これはお父さんに報告だな」


 二人は再び店内に入った。


「マスター、リフォーム以前に外壁の一部を外して基礎を確認させて下さい。この建物は布基礎って言って、建物の外周部にしか基礎が入ってないと思うんですけど、その一部が割れているかもなんです。このままじゃ建物も危ないんで」

「えー?」


 絵梨の両親も仰け反った。


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