Emotion
ザイン
第1話 目の前にいるのは『私』
「皆~~~!!今まで本当にありがとう~~~~~!!!」
今、1人の夢や希望を与えてきた存在が表舞台から姿を消そうとしていた。
『大空望(おおぞらのぞみ)』
右も左もわからぬ世界で足掻き苦しみ、それでも諦めず笑顔でひたむきに自分の望みを叶える為に先頭を走って来た女は、この世界で誰もが憧れるステージの上でその夢物語を閉じる。
「望~~~~」
「望ちゃん~~~やめないで~~~!!」
彼女に夢と希望を見出していた者達は彼女の決断に悲しみ、涙を流し彼女の決断を理解をしようと周りを気にせず感情を爆発させた。
彼女はこの世界で欲しい物は全て手にした。
毎日のように自分が出演するCMが流れ、オリコンチャートでは新曲を出す度に1位、時代の流れでもはや不可能と言われていたミリオンも2度達成、ライブツアーは60分以内に完売し、今回の最終ライブツアーも全公演で満席。会場に惜しくも入る権利を逃した人々が会場の外で会場を囲む程だ。
誰から見ても『成功者』その一言に尽きた。
彼女なら他の世界に移っても成功出来ると予想するものは多い。ミリオンを達成した歌なら勿論、主演女優賞にも選ばれたことのある演技、世間受けも悪くないのでマルチに活動できる・・・・・この世界の人達はそう考える人が多かった。
だが、彼女はそうはしなかった、何故そうしなかったのかは彼女自身にしかわからない。世の中に謎を残しながら彼女は有終の美を飾ることにした。
それから1ヶ月・・・・・
彼女は布団の中にいた。久しぶりに体感する時間に追われない日々。あの頃にはあまりなかった日の出よりも遅い起床。つい最近までいた朝の生放送の自分の席には、他の演者が座っている。
「・・・・・愛想ふりまいてるだけじゃあね~」
後釜に画面越しに毒づく、コーヒー片手にバスローブ姿でTVも視聴する自分に、どれだけの人々が幻滅するだろう・・・・・そんな考えは3日で消えた。
スマホ片手についあの頃の癖が出る。
「・・・・・・もう気にしなくていいのにね」
彼女はそんな自分を小馬鹿にすると、通知が来る
「・・・・・なに、今更」
通知の相手は彼女の身近な人物。少し引きつった表情をしながらも、彼女はその人物と会うことにした。
「どうだ。久しぶりの自由満喫してるか?」
食事どき、オープンテラスに腰かける彼女に男が声をかける。
「・・・・・呼び出しといて遅くない?」
冷たい視線を送る。
「悪いな、お前と違って忙しいんだ俺は」
「・・・・・なんの用?」
「人と話す時にはサングラスと帽子を外せ」
「悪いわね、あんたと違って私は世間に顔知れちゃってるから。騒ぎになっちゃうの」
「大した自意識過剰ぶりだ『元』トップアイドル様は」
嫌味を言ったつもりが逆に返され更に機嫌を悪くする。
「でっ、何よ今更?」
自然と口調が強くなる。
「そろそろ何もない暇な生活は飽きたんじゃないかと思ってな」
「そんなことないんだけど」
「まあいい。お前どうするつもりだ?」
「何を?」
「まだ人生何十年とあるんだ。いつまでもそう暇人してるわけじゃないだろ?」
「別にやりたいこと探すわよ、幸い蓄えは十分あるし」
「・・・・・っまあ正直俺はどうでもいいんだけどさ、父さんがお前を呼んでる」
「!?」
「良かったじゃないか、ようやく父さんから認められて」
「冗談じゃない!?勝手にそっちから見捨てておいて利用価値が出てきたら。今度はゴマすり!?」
自分の『今』を忘れ感情が荒ぶる。
「勘違いするな。父さんは寛大だ。荒波に呑まれながらなんとか生き残ったお前にもう一度チャンスをくれるんだからな」
「はっ!?」
「大した学も無い、職務能力もない女に世間に名を連ねる父さんが採用基準が厳しいことで知られているうちの会社に面接パスして即入社させてくれるって言ってんだぞ?ありがたく思えよな」
「・・・・・あの人に伝えといて、あんなお金の奴隷に成り下がった会社に入るなんて死んでもゴメンだってね」
「・・・・・・・律儀な奴だ」
オープンテラスに取り残された男のテーブルの上には彼女が支払うべきお金が置かれた。
数々の誘いを断り自由を謳歌していた彼女は、突如衝撃の情報を目にすることとなる。
それは彼女の最後のライブが伝説と称されその話題も冷めようとしていたある日だった。
いつものように癖をする彼女。ある情報に目が留まる。
(伝説のアイドル、地下ライブでまさかの復活?)
「なにこれ!?どういうこと!?」
自分の目に映ったのは間違いなく『大空望(おおぞらのぞみ)』であった。
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