第13話 イブ前夜

2017年12月23日 PM6:00


「この店ね・・・?」

絵美は見覚えのある街の中で躊躇しながら、佇んでいた。


学生街の雑踏がざわめいている。

6年前の風景を懐かしむ間も無く、今から行う「過去の塗りかえ」に胸を高鳴らせていた。


身につけている衣服、バックの中の携帯も。

全て、あの頃のままだった。


間違いなく絵美は6年前の時間にタイムワープしていたのだ。


このまま。

そう、このままゼミの打上コンパに参加すれば。


優太と一夜を共にすれば。


宏との結婚も無くなる。

優太と結ばれるのだ。


(だけど・・・)

絵美は、あと一歩が踏み出せないでいた。


過去を塗りかえる。

忌まわしい事実が変わる。


だけど。

同時に愛する娘とも別れるのだ。


夫の宏には何の未練も無い。

だけど、だけど・・唯奈は違う。


愛する娘なのだ。


自分が一歩踏み出すことによって。

愛らしい笑顔がこの世から消えるのだ。


永遠に。


健太君もそうだ。

優君は忙しいのに愛情を注いでいた。


それが他人の血を引いていることも知らずに。


そう。

そうなのだ。


そもそも、異常で不条理なことなのだ。

自分と優太が結ばれれば正常な世界に戻れる。


皆が幸せになれる。


絵美の喉が上下する。

右手をギュッと握りしめて。


一歩。

前に進むのだった。

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