対空戦闘用意(三)
翼ある存在が地表に影を落とし、早春の風を受けて悠然と飛び去っていく。
ただしある程度の知性がある彼らは砦や大きな町には訓練された兵がいて鋭い武器を持っていることを知っており、それらに近づくことはない。ゆえにこのロッドベリー砦を無視して後方の隊商や旅人を襲うのだ。
城壁上に設けられた射台からそれを見送ったエクトール君は、
「今日も誰かが奴らに襲われるのかと思うと、自分の無力さに腹が立つね」
「うん……でももうすぐだよ」
工事を手伝ってもいない私が言うことでもないだろうけど、もうすぐだ。ロッドベリー砦の改修工事はあらかた終わり、既に上空の目標に対する射撃訓練が始まっている。我が物顔で空を駆ける有翼妖魔に対する対抗手段を私達
エクトール君がリットリアさんに示した改良案は、この射台に限っても複数あるという。固定式の
各射台には固定式の大型
その赤緑二色の手旗が大きく振られた。これは「目標指示、照準合わせ」の命令。連絡員がそれを受け取り、目標を指示。二人の照準手が回転台を回し、射手が照準器を覗き込んで微調整する。
やがて緑色の旗が振られたのは「
射手と照準手が笑顔で掌を打ち合わせ、両隣の射台から拍手と歓声が上がる。
イスマール侯国どころではない。万年雪の山脈と海に隔てられた大陸北方で独自の発展を遂げたこのグロッサ地方において、かつて
「エクトール君、これがあれば……その、
幼さの残る少年のような顔立ちの若者は、何を言っているんだと言わんばかりに横目で私を見た。
「僕達の仮想敵は
残雪が消え色とりどりの草花が春の訪れを告げる頃、その日は来た。
矮小な
だが今日ばかりはそれを許すわけにはいかない。
「総員対空戦闘用意!」
司令部施設で発せられた命令が百
照準手さんが二人がかりで大きな
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