第49話 金運上昇! 聖神社&和銅遺跡
温泉を心ゆくまで堪能した彩香は、和銅黒谷駅に戻ってきた。
時刻はすでに十五時近いが、今の時期はまだしばらく日は沈まないので、もうしばらく滞在しても大丈夫だろう。
だから、まずは駅から徒歩数分の場所にある
「え〜と……あの階段を上ればいいのかな」
少し歩くと、神社への階段が見えてくる。
その階段を上り、途中にある手水舎で手と口を清めてから再び上り始めた。
そうして階段を上りきった先に目的の聖神社はあった。
思っていたよりこぢんまりとした神社だ。
社殿は小さめで境内も狭い。
だが、それでも神社特有の厳かな雰囲気は漂っていた。
「ここにも和同開珎のモニュメントがあるんだ……」
駅で見た和同開珎のモニュメントと似たものを見つけて、近寄ってみる彩香。
普通のモニュメントだが、何だか神秘的な力が宿ってそうな気がするから不思議だ。
スマホのカメラ機能を立ち上げて撮影を開始することにした。
「……さてと、せっかくだから参拝しようかな」
撮影が終わったので、賽銭箱の前に移動する。
聖神社は、『日本最古の貨幣』と言われている和同開珎に関わる神社だ。
一応、和同開珎が誕生する以前にも『富本銭』や『無文銀銭』などの貨幣らしきものは造られていたのだが、今のところそれらにお金としての価値があったのかどうかは定かではない。
もしかしたらそれらの銅銭や銀銭を使って品物を手に入れていた人も存在するかもしれないが、それは“お金で品物を買っていた”というより、“銅銭や銀銭という品物を別の品物と交換していた”という感覚に近いだろう。
要するに、銅銭も銀銭も『物々交換を成立させるための品物のひとつ』と考えられていた可能性もあるのだ。
一方、和同開珎はある程度流通していたことが判明しているため、一定数の人から『貨幣』と見なされていたことが窺える。
実際に日本各地で多くの枚数が出土されているという事実もある。
だから、日本で最古の貨幣と言われているのだ。
そんな和同開珎の材料となる自然銅が採掘された場所だから、このあたりは『日本通貨発祥の地』などと呼ばれているのである。
「え〜と……財布、財布っと……」
バッグの中から財布を探し、その財布から五円玉を取り出すと、賽銭箱へと投入した。
それから二礼し、二拍手をする。
そして、静かに目を閉じた。
聖神社には、『ニギアカガネ』と呼ばれる、精錬を必要としない質の高い自然銅が御神体として奉られている。
その和銅が、当時和同開珎の材料として使われていたのだ。
そんな和銅が奉られているので、この神社はお金の神様としても有名だ。
参拝するだけで金運が上がるような気がしてくる。
彩香は無難にお小遣いのアップをお願いすることにした。
神仏の前で充分過ぎるほどお祈りをした後、最後に一礼をした彩香が目を開ける。
それからくるりと回れ右をすると、ゆっくりと歩き始めた。
「さてと……これからどうしようかな」
境内を何気なく見回す。
すると、『和銅鉱物館』と書かれた建物が視界に入った。
非常に小さな建物だ。
だが、事前情報でこの建物の存在は知っていた。
ここには日本のみならず海外から集めた鉱物が多数展示されているらしい。
せっかくなので、見学していくことにした。
「思ったよりたくさんの鉱物が展示されてる……」
鉱物館の中に入った彩香は、まず展示品の充実ぶりに驚いた。
小さな建物にしては、様々な鉱物が展示されている。
これなら鉱物が好きな人も満足できそうだ。
彩香はしばらくの間、鉱物館を見学した。
「う〜ん、結構面白かったなぁ〜」
一通り鉱物を見て回ったので、外に出る。
時刻はまだ十六時前だ。
もう一か所くらい見学できるだろう。
そう考えた彩香は、神社の境内を出て露天掘跡に向かうことにした。
狭い道をひたすら歩き、二十分ほどでようやく目的地に到着する。
「ここが露天掘の跡地……」
暑い中がんばって歩いてきたものの、大昔に銅を採掘していた場所の跡地でしかないので、特に何かが残っているわけではない。
せいぜい、銅の採掘場であったことを示すモニュメントと説明文が記載された看板が建てられているくらいだ。
だが、それでも特別な場所であることに変わりはない。
何の変哲もない場所だが、一応写真に撮っておくことにした。
「よし……そろそろ帰るかな」
露天掘跡の見学を終え、来た道を引き返す彩香。
このあたり一帯は『和銅遺跡』と呼ばれており、他にも見るべき場所はあるのだが、今からすべてを見て回るような時間はないため今回は断念するしかない。
しかし、聖神社に参拝し、鉱物館を見学して露天掘跡まで見ることができたのだから非常に充実した時間だったと言えるだろう。
そんなことを考えながら歩き続けていると、前方に和銅黒谷駅が見えてくる。
初めての一人旅もそろそろおしまいだ。
「ん〜今日は楽しかったな……一人旅も案外いいかも」
仲の良い友人との旅行も楽しいが、一人旅には団体旅行にはない魅力があるような気がする。
どこに行って何をするかは全部自分一人で決められるし、食べるものや立ち寄る店なども完全に自由だ。その時の気分に任せて急な予定変更をしても誰にも文句は言われない。何ならほとんど予定をたてず、行き当たりばったりの旅をしたってよい。
自分の時間をすべて自分のためだけに使えるのは最高の贅沢と言えるだろう。
それがわかっただけでも、一人旅をした意味はあったような気がする。
「次は泊まりで旅行してみたいな……」
ふと、そんなことを思う彩香。
泊まりで一人旅をしてもよいと思うくらい楽しいと感じたのだ。
「とりあえず、今日の写真を海愛に送ろっと!」
スマホを操作し、今日撮った写真の中から良さそうなものを選んで幼馴染みの海愛に送る。
いい写真がたくさん撮れたので、どんな反応が返ってくるか少し楽しみだ。
そんなことをしているうちに電車がやって来る。
この電車で熊谷駅を目指し、高崎線に乗り換えれば、東京に帰れるはずだ。
彩香は若干の名残惜しさを感じながらも、やって来た電車に乗り込んだ。
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