第5話 初めての日帰り温泉旅行 草津温泉④内風呂

露天風呂から内風呂にやって来た二人は、まずシャワーで体を洗うことにした。

ボディーソープを使って全身をキレイにし、シャンプーとリンスで髪を洗う。

体の隅々まで洗い終わったところで、内風呂に入るため足を浴槽の湯に浸けた。

――が、


「……熱っ!!」


予想外の熱さに思わず足を引っ込めてしまった。まさか内風呂がこんなに熱いとは……露天風呂がぬるかったせいで、完全に油断していた。

そんな海愛に彩香がアドバイスをする。


「入る前にかけ湯をした方がいいよ。そうすれば、体がお湯の温度に慣れるから……あ、もちろん心臓に遠い場所からかけ湯をしてね」


そう言いながら、彩香は桶でお湯をすくって両足にかけ始めた。

足の次は膝、その次はお腹と徐々に心臓に近い場所に浴槽のお湯をかけてゆく。

最後に肩からお湯を浴びて、湯船に浸かったのだった。


「かけ湯って体を洗うためだけにするものじゃなかったんだ……」


よくよく考えてみれば、今までもお風呂では湯船に浸かる前にかけ湯をしていた。ただ体をキレイにするためだけの行為だと思っていたが、お湯の温度に体を慣らすという重要な目的もあったらしい。

そうとわかれば、言われた通りにした方がよいだろう。

かけ湯の大切さを知った海愛は、彩香と同じように両足から浴槽のお湯をかけ始めた。

そうやって体を温泉の温度に慣らしてから、まずは湯船に足の先だけ入れる。

その後、少しずつ全身をお湯に浸けた。


「熱いけど内風呂もいいね」


浴槽の中で両足を伸ばしてくつろぐ海愛。

高温のお湯でも体が慣れればすごく気持ちがよい。相変わらずピリピリとした刺激は全身に感じられたが、それはもうほとんど気にならなくなっていた。


「あったまるよね~」


彩香も両手両足を伸ばし、完全に脱力状態だった。

日常生活で溜まった疲労が抜けていくような気がする。最高の回復スポットと言えるだろう。

それから二人は心ゆくまで草津の湯を満喫すると、最後に上がり湯をして脱衣所に戻るのだった。



再び湯畑のある広場に戻ってきた海愛と彩香。

気温は低く風も冷たいが、つい先ほどまで熱い温泉に浸かっていたおかげで体はポカポカしていた。


近くの店で温泉たまごソフトを買って、ベンチに並んで腰かける。

時刻は午後四時前。太陽が西へ傾き、昼時よりも冷え込んできているが、湯畑の周囲はまだ観光客であふれていた。


買ったばかりのソフトクリームを一口食べる。

冷たいクリームが火照った体に染みわたり、格段においしく感じられた。


「……ねぇ、彩香」


目の前の湯畑をじっと見つめたまま隣に座る彩香に話しかける。


「どうしたの? 海愛……」

「今日はありがとね。彩香が誘ってくれなかったらここに来ようなんて絶対に思わなかった。来てよかったよ」


旅行に誘ってくれた彩香に心からの感謝の気持ちを伝える。

草津温泉に行こうと誘ってくれたから、この場所の良さを知ることができた。

最初はあまり乗り気ではなかった自分を無理にでも連れてこようとしてくれた彩香にお礼を言わずにはいられなかったのだ。


「あたしの方こそありがとね。海愛が一緒に来てくれたから今日はすっごく楽しかったよ」


感謝の気持ちを抱いているのは彩香も同じらしい。

もしも海愛が旅行を本気で断っていたら、おそらく一人で来ていたはずだ。

しかし、それだと楽しさは半減だった可能性が高い。二人で来たからこそ満喫することができたのだと考えているのだろう。


「あのさ……また温泉に行く時は私も誘ってくれる?」

「もちろんだよ! 絶対また行こうね、海愛!!」


喜色満面の表情で答える彩香。引っ込み思案の海愛の口からまた誘ってほしいという言葉が聞けて嬉しいのかもしれない。

海愛もまた、一緒に旅行できることが今から楽しみになっていた。次はどんな温泉に入れるのかと思うとワクワクしてくる。


「……じゃあそろそろ帰ろうか」


ソフトクリームを食べ終えた彩香がベンチから立ち上がる。


「ちょっと名残惜しいけどね」


海愛も最後の一口となったコーンを口の中に放り込み、ゆっくりと立ち上がった。

まだもう少しここにいたい気持ちもあるが、これ以上滞在していたら帰宅が遅くなってしまう。

だから、今日はもう帰ることにする。また何度でも来れば良いのだから、名残惜しさなんて気にならない。


その後、二人はお土産に温泉饅頭を購入し、往路の時に利用したバスとは別の高速バスに乗り込んだ。

そして、高速バスで四時間半ほどかけて東京に戻ったのだった。

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