キルレシオ

@parliament9

第1話


その怪人は、新宿中央公園の白糸の滝を割るようにして現れた。

身長は三メートルほどあり、人の頭まるごと一つほどの目玉が頭、胸、腹に一つずつ団子のように並んでいる。腕もまた左右に三本ずつついており、それぞれに長さ一メートルほどの剣が握られていた。

目立つような音もなく、実に静かに現れたので、公園の雰囲気を楽しんでいた人々はみな、何がそこに現れたのか理解出来ず、何かの出し物か何かかと自分が慌てずに済む理屈ばかりを浮かべた。

シュリンと怪人の右の、真ん中の腕が伸びるように振るわれ球遊びに興じていた児童の首が滑らかに飛ぶ。

数瞬過ぎる。

ぼとりとぐちゃりが一つになったかのような、不快な音が響く、載るべきものを無くした胴体から血が噴き上がる。

匂い、血の匂いが何よりも早く広がり、周囲の人間の思考は瞬時に恐怖と混乱で埋め尽くされた。そうしてバタバタと逃げ出そうとするが全てが全て、全くもって何もかも遅く、怪人の左右合計六本の、伸縮自在の腕により、その場にいた人々は胴体を、顔を、四肢を斬り飛ばされていく。

血の雨が降り、アンサンブルな悲鳴が上がる。

怪人の頭の目玉は前を、胸の目玉は左右を、腹の目玉は後ろを見る。口が開いた。人間で言うところの股間にある大きな口が開き、歓喜の感情の込められた鳴き声のようなものが辺り一帯に響き渡った。

ウウウウとサイレンが鳴り、パトカーが到着する。警官は辺りのあまりの惨状と血塗れの異形の存在に、指示を仰ぐ余裕すら消し飛ぶようにして怪人に向け、拳銃を撃ち込んだ。二台のパトカー、四人の警官による38口径回転式拳銃の乱射。当然外れたものの方が多い。しかして数発は確実にいずれかの目玉に直撃した、はずであった。だが警官の、人間の目に届いたものはひしゃげた鉛玉が力なく、怪人に一切の傷も与えることなく落ちていく様だけであり、次の瞬間には刃状のものが眼前一杯に広がって意識はプツリと途絶えていく。

そうして一度、怪人が認識出来る範囲においてまともな人間は居なくなる。公園には戦闘能力を失った肉塊がごろごろと転がっているだけだ。


怪人は歩みを進めた。

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