第2話 手作りブレスレット

 サチコが積極的に行動を起こしたのは、必要に駆られたからである。

 突然、サチコの父、ジャック・カトーが、ぎっくり腰になってしまったのだ。


 父はプロレスラーのような大男だが、見かけに似合わず手先が器用で、「腕の良い道具屋」という評判を誇っている。頑強な身体が自慢だったのに、仕事の無理がたたったのか、激しい腰痛のために、ベッドから一歩も動けなくなった。


「すまん、サチコ。マジで死ぬほど痛いんだ」

「父さん、大丈夫だよ。ゆっくり腰を治して」

「腰のことより、おまえたちが心配なんだよ」


 カトー家には蓄えがない。父が働けないと、すぐに立ち行かなくなってしまう。

 サチコは二年前に、母親は病気で亡くしている。カトー家の危機を救うのは、サチコと弟のショウしかいない。二人で力を合わせて、この窮地を逃れなければならなかった。


「心配しないで大丈夫。私が何とかするから」

 

 もはや迷っている暇はない。サチコは前から考えていたビジネスを実行に移した。


「ショウ、あんたの力を貸してほしいの」

「うん、何をすればいいのさ、姉ちゃん」


 サチコはショウと一緒に森に入り、大量の木のつるを手に入れた。天日干てんぴぼしで乾燥させ、表皮をむいて、弱火であぶると、ブレスレットに加工することができる。



サチコは目標を100個に定めた。


「姉ちゃん、いくつ作ればいいんだ?」

「そうね、とりあえず、100個かな」


「100個? そんなに作って大丈夫? 本当に売れるの?」

「ショウ、売れるか売れないかではなくて、絶対に売るのよ」


 ショウは父譲りの器用さを持ち合わせていた。サチコよりも木の蔓の加工に長けているので、次々と商品に仕上げていく。


 そう、ブレスレットは商品だった。それも元手のかからない商品である。原価がゼロだし、人件費もかかっていない。必然的に利益率は高くなり、売り上げのほとんどが利益となる。


 残された課題は販売ルートである。最初は父の道具屋と同じルートを考えたが、どこに話を持ちかけても、芳しい結果は得られなかった。


 考えてみれば当然だ。異世界には元々、ブレスレットという概念がない。装飾品を身に着けるのは一握りの王族だけであり、一般庶民には無縁の代物である。簡単に売れるはずがなかった。


 庶民に手の届く価格設定にする必要がある。だが、安売りをすればいいというものではない。商売として継続していくためには、何が必要か? 言い換えれば、マーケットを活性化させるには、何が必要なのか?

 

 ベストは異世界でブームを巻き起こすことだろう。

 では、ブームを巻き起こすためには、何が必要か?


 サチコには、一つのアイデアがあった。



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