第9話

『お食事の時間です。ミスター・イチノセ』


 返り血で染まった俺に【エメリッヒ】が声を掛ける。


「ああ。わかった」


 俺は逃げるモンスター達に興ざめしながら袖で口元を拭う。

 最初のミノタウロス以外は然程、手応えがなかった。

 寧ろ、赤子を捻るように容易いくらい、俺の力は増大しているらしい。

 そんな俺を【エメリッヒ】は再度、生体データを取って解析する。


『素晴らしい。魂が同化する事でエネルギー容量がアップし、身体に影響を与えているとは・・・良いデータが取れました』


 俺はそんな言葉を聞きながら実験室を後にするとミノタウロスのステーキで腹ごしらえする。

 牛の頭部とは言え、肉体は人だ。やはり、人肉のステーキに近いが魂が別の存在と同化したせいか、人肉を食べる事への抵抗と言うのがなかった。

 どうやら、本格的に俺は人間を辞めているらしい。


 そんな俺に【エメリッヒ】はある提案をして来る。


『ミスター・イチノセ。自分と戦ってみたくはないですか?

 正確にはあなたの細胞から産み出したクローンキメラです。ご興味があれば、実験室の隣の部屋へどうぞ』


 こんな事を聞いたら、やらない理由はない。

 俺はミノタウロスのステーキを平らげると水分を補給してから、その実験室へと向かうのであった。

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