キャンドル 2023/11/19

「この燃え尽きかけている蝋燭ろうそくを見ろ。

 これは貴様の寿命だ。

 燃え尽きるとお前は死ぬ」

 死神は衝撃の事実を告げる。

 だが俺は動揺しながらも、疑問に思うことがあった。


 思い切って死神に聞いてみる

「あの、これ蝋燭って言うよりキャンドルでは。

 アロマキャンドル」

 蝋燭からすごくいい匂いがするのだ。

 気になって仕方がない。


 すると今まで無表情だった死神は、バツが悪そうに答える。

「閻魔のやつがな。

 今どき蝋燭は古臭い。

 もっと現代的なオシャレな物を、と言ってこれに変わったのだ」

 ああ、上司の無茶振りか。

 死神も大変だな

 しかし雰囲気が台なしである


「理由は分かったな。

 お前も死にたくないだろう。

 お前の蝋燭の火を、他の蝋燭に付け替えるといい」

 飽くまでも蝋燭と言い張る死神。

「ここにフローラルや柑橘系など色々ある。

 好きなものを選ぶといい」

「なんで種類あるんだ」

「一種類だと飽きると、閻魔のやつがな」

「そっか」

 そう言うしか無かった。

 下手な慰めは彼のプライドを傷つけるだろう


「じゃあ、フローラルで」

「これだ。自分でつけろ」

 そう言って死神はアロマキャンドルを俺に手渡す。


 緊張するかと思ったが、アロマキャンドルの香りのおかげなのか、リラックスして火を付け替えることはできた。

「ほう、うまいものだな」

「俺もびっくりしています」

 俺は正直に言う。

「ところで、このアロマ、なんの花なんだ。

 鼻がムズムズするんだが」


 死神が考える素振りをする。

「さて何だったか。

 部下に命令して取りに行かせたものでな。

 部下が言うには、春にたくさん咲く黄色い花だそうだ」

「ちょっと待て。

 まさかスギじゃないよな。

 俺、花粉症―

 ぶえっくしょん」


 俺が最後に見た光景は、蝋燭の火がクシャミで消えるところだった。

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