毎日短編集11月分
ハクセキレイ
永遠に 2023/11/01
「次は、永遠駅(とわ)、永遠駅」
電車のアナウンスで隣りにいる夫と目を合わす。今日は夫と二人で息子夫婦と孫に会いに来たのだ。
電車に緩やかに速度を落とし停車する。
ドアが開いたので降りようとすると、先に降りた夫が手を差し出す。
私は夫の手を借りながら電車を降りる。
夫は前にもここで転んだ事を覚えていたらしい。
そう、私たちがここに来るのは2回目である
永遠という地名には由来がある。
ここは地形の関係でいつも風が吹いているのだそうだ。
本当に“いつも”なのかは知らないが、私が前に来た時はずっと吹いてたし、今も穏やかに吹いている。
この地名が縁起が良いということで、よく観光客がやって写真をったりと、ちょっとした観光名所だった。
さらに何かシンボルを、ということで小さな鐘が設置された。
これが大当たりし、カップルや新婚がやって来ては鐘を鳴らして愛を誓い合うがブームになったのをよく覚えている。
もちろん私も結婚したばかりの時、夫と一緒に鐘を鳴らし、愛を誓った。
しかし、それは昔の話。そんな鐘も誰も鳴らすものはいない流行り物だったのもあるのだろうが、みんな永遠なんてないって分かったのだろう。
私たちもそうだ。
お互い愛するものは一人だけと誓ったというのに、愛するものが増えてしまった。
息子夫婦と孫の3人、愛すべき家族。
誓いは破ったが、悪くない気分である。
気づけば夫と一緒に鐘をぼんやり眺めていた。
同じことを考えていたかもしれない。
しばらく眺めていると、視界の隅にこちらに来る人の姿が見えた。
息子夫婦だ
「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは」
息子に抱かれた孫が元気に挨拶してくる。たしか五歳になるはずだ。
孫は私達の後ろにある鐘に気づいたようで、じっと見ていた
「それ、ボクもならす」息子に催促して、鐘の前に移動する。
小さな手で鐘から伸びる紐を引っ張って、鐘を鳴らすと鐘の声が辺りに響いたその音に満足したのか大きく頷いたあと、手を合わせ始めた。
「おじいちゃんとおばあちゃんがずっと元気でいますように」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます