第18話 死に戻り
「うーん、ここは?」
私は気がつくと変な部屋に移動していた。
球形の部屋で、前方に光る球がある。
『ここはリスポーン、つまり死に戻り部屋ですね。ここで死に戻りを待つのです』
とはヘルプさんの説明。へー、こんな部屋で待つんだ。死んだの初めてだから興味深いな。
でも、リザレクションをアキちゃんがかけたと思うんだけど、間に合わなかったのかな? 胴体真っ二つじゃリザレクションも出来ずに強制死に戻り?
『普通は30秒から5分ほど、賊などで指名手配されている場合でも長くて5時間くらいで死に戻りが出来るのですが、雪菜様はバグが出ているらしく死に戻りの時間が見通せません。少々お待ちください』
はああああああああああ!? どういうことよ!
今の時刻を見るために左手でホログラムボタンを操作する。
あれ? 動かないぞ? なんでだと左手を見る。
肘から先がすっぱりと消え去っていた。え? え?
『通常は死に戻りすると五体満足で復帰するのですが、雪菜様の左腕はバグがあったらしく元に戻せません。バグが直った際に死に戻りをすれば元に戻ると思います。ご迷惑をおかけして申し訳ありません』
は? 何を言ってるんだヘルプさんは?
聞き直す。同じ答えが返ってくる。
聞き直す。同じ答えが返ってくる。
聞き直す。同じ答えが――。
運営だ、運営に連絡しよう。
ぷるるる、ぷるるる。
『はいこちら運営です。雪菜様ですね』
『ええ、腕がなくなったってエラーが出ているのですが』
『現状こちらも雪菜様の不具合は確認しているんですが、エラーが解析不能で時間かかります。アキさんのエラー回復能力でも解析できるかどうか』
『じゃあどうにもならないってこと?』
『システム側では現状はエラー解析を試みている、以外はどうにもなりません。内部では元に戻す方法があるかもしれません。何分システムも内部は把握していないので』
通話を切る。
左手がなくなるって、まじか。
利き腕なんだぞ。銃はこっちで撃っていた。食べるのもこっちメインで食べていた。文字を書くのも、投げるのも、みんなみんな全部全部!!
悲観に暮れていると、ヘルプさんからエラーが取れて三日後にリスポーンが出来るとの返事があった。
三日後か、長いな。
この先のことでも考えようか。
幸い執筆は執筆カフェ行けばいいのでTSS内じゃなくてもいい。執筆できる。本は継続的に売れそうだ。
冒険や戦闘はどうなんだろ。撃つ分には右腕でも撃てるだろうけど、リロードが出来ない。魔導具で作れるかな。あ、スキルにオートロードがある。それを取ればなんとかなるかな。
だめだ、やっぱり前向きになれない。
欠損はどうしようもないよ。冒険や戦闘はもう無理だ。
無理だよ。
無理だぁ。
やめようかな……。
死に戻り待機期間はログアウトしても経過するということで一旦ログアウト。
自室で御茶を飲む。
はぁー、美味しい。
頭がスッキリするね。
別に冒険しないといけない世界じゃないから、パン作りとか、ただノンビリするとか、他のことして楽しみを見いだせば良いや。貿易とかも面白そうだよね。
10分くらいの間だったけど十分スッキリできた。入り直そう。
入り直したら、ジダンの自室にいた。三日間はすでに経っていたようだね。
左腕を見ると、やっぱりない。しょうがないか。なんかソフィアさんみたい。しょうがないしょうがない。
ダンダンダンダン!
ドアを思いきり叩く音が聞こえてきた。アキちゃんだな。死に戻りを察知したか。
「開けるよー、って左手じゃ駄目だった」
慣れない右手で鍵を開ける。どれだけ両利きの鍛錬しても不慣れは治らなかったなあ。あ、でも、スキル両利きはあったはずだよね。
「やあ、アキちゃん」
「ご主人様会いたかったです! 死に戻り待機時間が長かったんですね! さあ、私を抱きしめてください!」
しっかりと抱きしめる。左手がないと思いきり抱きしめられないな。
「あれ」
「どしたの?」
「こっち側の圧力が薄いですよ。もっとしっかりと抱きしめてください」
「ああ、これだから」
そう言って左手を見せる。絶句するアキちゃん。
「え、なんで? なんで無いんですか?」
「なんでだろう。なんかバグで復元できないって」
「え、でもバグなんて見えな、い……」
アキちゃんでも駄目か。
「そういえばあの紫の大男、バグモンスターでした。もしかしてあいつに切られたから――」
「バグがあったのか。そういえばあの戦争はどうなったの?」
「ええとバグを直したのでバグボーナスがありますもしかするとこれで詳細はルウラさんに聞いて下さい」
なんか混乱してるけどバグボーナス貰うか。それで両利き取ろう。
じゃあちょうだいといってバグボーナスを貰う。
【20000経験値、200スキルポイント、バグ特効1を手に入れました】
お、かなり凄い。そりゃ私がやられる強さだもんね。
中級スキル両利きをレベル5まで振る。これで少しは楽に行動できるようになっただろう。天買神のスキル上限が無いことを生かしてこれからは両利きを主にあげていこう。もう戦闘もしないんだし。
じゃあ、ルウラさんの所いってみるか。
ジダンの傭兵の館は大賑わいだった。ルウラさん忙しくて駄目かな。
ルウラさんを待っていると、傭兵やそれを雇う人の視線がちらほら目につく。
「あれ、雪菜だよな」
「左手、ねえよな」
「どうなってるんだ? TSSは五体満足で遊べるのが売りでもあるんだが」
「どうせまたバグだろ。これで戦闘でブイブイ言えなくなったんじゃねえか、ざまぁみろ」
はあ、ひそひそ話でも聞こえちゃうんだよな。義手作った方が良いかな。
でももうジダンでバレたからな。噂は全世界に広がっちゃうな。
「雪菜様! ご無事でしたか!」
悶々と考えているとルウラさんが来てくれた。
そして個室に案内してくれた。
「まずはあの戦闘の推移をお伝えしますわね」
まず雪菜さんが即死したことで士気が一気に下がり傭兵軍団が敗走しかける。
ぶち切れたアキちゃんが紫の大男と戦闘。苦戦するが桜花・波動弾を撃って紫の大男を消滅させる。
そして、急に統率が取れなくなったウルフコボルトは個々に戦闘をするようになる。
一進一退の攻防状態になる。
そこでルウラさんが乗った、雪菜が買ったコルベット艦が到着する。
コルベット艦から出てきた50名の最精鋭の身長3メートルを優に超えるジャイアント族、2メートルを優に超えるハーフジャイアント族の一群が猛チャージをしかける。こいつら最精鋭中の最精鋭。
このチャージがきっかけとなりウルフコボルトの軍団は総崩れとなり敗走。追撃により壊滅。
――勝利!――
「という流れです。私たちは勝利しました。ただ、代償があまりにも大きすぎる。左手がなくなるなんて」
「紫の大男、アキちゃんが苦戦するとは。左手は、まあ。不自由さを味わえばまた小説の題材になりますし。」
「そうですか……。そうだ、あの場所に巨大な液体金属が誕生したんですよ、なんでも雪菜さんのペットという話じゃないですか。迎えに行ってあげて下さい。船着き場にコルベットはおいてありますので」
「ああ、夏芽か。そうですね、迎えに行きます。じゃあ早速コルベットに」
ルウラさんと別れ、コルベットに乗り込む。
自動運転は楽だけど手動運転は両手があること前提なんだよなあ。手動運転は操縦系スキルが乗るんだけど、ちょっと無理だね。
高級コルベットなので足はめっちゃ速いんだけど、狙われても嫌なのでヘックスは通過せずドティルティ経由で向かうことにした。
ドティルティも結構田舎なんだよな。レングスほどではないけど農場が多い。穀物の一大生産地だからね。移住するのここでも良いかもな。農業は機械化されているから私でも出来る。
ぷかぷか浮きながらドティルティに到着。夏芽には早く会いたいけど死んだ場所だし左手を失った場所だしあんまり行きたくない。なのでノンビリ移動している。ドティルティに用はあんまり無いのでさっさと通過。一面に広がる小麦畑がなんかオーストラリアを連想したなー。オーストラリアは小麦の一大生産地だもんな。以前訪れたことがあるんだけど、深刻だったという水問題は50年代に解決してるから本当大きい農場が多い。牛さんもいっぱいいた、オ-ストラリア産の牛肉はとっても美味しかった。
ぷかぷか浮いてレングスに到着。まずは傭兵の館へ。カザリンとぴょん子は死に戻り地点がここだったはず。雇用主が死んだら死に戻り地点へリスポーンされる仕様だったはずなんだよね。
「よう、災難だったな」
「もう噂広がっているんですか」
「噂は聞いているがそうじゃない、お前さんの身体能力が低下したから今まで雇用していた傭兵が雇用できなくなったんだ。弱くなったから今まで使えた傭兵が使えなくなったってわけだ」
「あぁ……もうカザリンとぴょん子とは組めないんですね」
「そうなる。どうする、誰か雇用していくか?」
「いえ、もう冒険はしないので大丈夫です」
「そうか、わかった」
カザリンとぴょん子を雇用できないのは本当に残念だ。
まあでも、冒険はもうしないしね。
ソフィアさんに正面から会うのは私の気持ちが無理だったので、アキちゃんを使ってフリゲート撃沈させてごめんなさい動画を作成しこっそりとアキちゃん派のけいじばんに載せといた。アキちゃん派でけいじばんを見ない人はいないから見てくれるだろう。
さて、次はアルダス村だ。ちょっと会いたくないから夏芽回収だけして帰ろうっと。
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