第2話 ミッション
雪菜騒動後に正式実装された、スキルを購入することで強くなっていく職業、『天買人』。私の時代にはお金でスキルを買えていたのだけど、今は駄目。現在スキルを買う方法は二つ。
一つ・経験値を消費してスキルを覚える
一つ・スキルポイントを集めてポイント交換でスキルをゲット
この二つ。経験値を貰うと共にスーパーマーケットのポイント的な感じでスキルポイントも貰えるので、基本は経験値を稼ぐことが主な方法になるみたい。世界組織『アキちゃん派』の副総裁ディンゴ・カザエフが教えてくれたからまちゃーないであろう。あいつならまちゃーない、まちゃーないよ。
「それで、誰でも経験値が手に入るように改良されたのが、この、ミッションてやつです。今までも使ってましたよね」
「たまにはね。でも初心者向けのコンテンツで上級者のメイン手法になるほどでもなかったような。」
「でもでも、その人その人に合ったミッションを提示するので中身は最新なんですよ。農家の方には野菜の手入れで経験値が、パーティ組んで狩りやってる人には貢献度を判定してその分だけ経験値が、などなど。ミッション強度によって入手経験値も上昇していきますし」
「ほー。ああ、お金が生み出されるのはミッションからだけだったね」
「ですです。ご主人様の所持しているとんでもない額の資産は全てミッションを行っている者の労働から成り立っているんですよ」
「このゲーム、人口が多いからねえ……。ここら辺は変化あったの?」
「新職業天買人をやり始めた数千万人が毎日ミッション回している、程度なら。さてさて、今のミッションはデイリーミッションと名を変えて、一日1回引けて、大目標一つと小目標二つが出てきます。強制ではないですし、向かないミッションと思ったら大小どちらも破棄することも可能ですよ。それではー、記念すべき第1回目を引いてみましょうー。がらんごろーん」
アキちゃん私のデイリーミッション引けるんかい! 何様!? 特殊ペット様だったわ!
頭の中で文字と鐘のビジュアルが表示され、がらんごろーんと鳴り響いたあとに、大目標にでんでけでーんとミッション名が表示される。その後に小目標も表示された。
「えーと、大目標がゴブリンを一人で討伐しろ、小目標がジダンを歩けと、ジダンの傭兵の館へ向かえ、だね」
なんか変なミッションだが、システムが介入したりヘルプさんが動いてこなかったりするあたり正常なミッションなんだろう。
「じゃあジダンを見て回りましょうか! この20年でジダンも大きくなりましたよ!」
「あ、じゃあ先にメールの処理しちゃうね。相当印税がたまってるはずなんだ。なにか購入する際の資金にしよう」
そして順々にメールを見ていく。親友の美代ちゃんことジュディが率いる交易商会は順調に交易会社を大きくさせたそうだ。100億ドルエンの追加投資をしたよ。巨大輸送船が買えるか買えないかというところだろう。もっと大きくなって欲しい。
世界的組織である「アキちゃん派」の実働部隊「アキちゃん同盟」のトップ、『ディンゴ・カザエフ』からは2兆ドルエンの印税が入ってきた。ちなみにけいじばんではアキちゃん派閥と名乗っている人物がコイツだ。相当やり手なんだがアキちゃんを信仰の対象としている訳ワカラン奴。
世界最大の都市ジダン。その周辺の四大都市を巡る道を安全にしようとしている「Order」のトップ、『オットー・ファネル』さんからは印税1兆ドルエン。
出版社が偏りのないようにしたり、そしてかなり刊行数を絞ったのでこの程度で済んでる、と思ってる。
普通に毎月10冊前後本を出したら――私はそれくらいのペースで出せる――20年もいなかったので印税が50兆ドルエンとかいっていたに違いない。18歳の私ですが、現実だと資産が世界4位なのだから。もうすぐ世界3位になる。
今後お金欲しくなったら刊行数を増やすつもり。ま、すぐに手に入るお金が有るわけでは無いが定期的に莫大なお金が入ってくる。この調子だとお金に困ることはないかなー?
「メールの処理はこんなもんか。じゃあミッションをこなそう!」
まあやると言っても大目標はちょっと横に置いておくしかないね。ゴブリンも世界に一匹だけいるだけじゃないし、スキルを買ってどこのゴブリンを殲滅するか把握しないとね。ミッション目標への道筋を示す目標方向表示と、現在地がどこにか示してくれるGPSスキルは欲しいなー。周辺の地図を表示するミニMAPも欲しいか。MAPもあると良いな。
よっし、ジダンを見て回りますか。小ミッションクリアも兼ねて。
「よーし武具屋までダッシュだー!」
「わーい!」
ズドドドドドドドドド
とてとてとてとて
走り出したアキちゃんはめちゃくちゃ速くて、すぐに私をおきさってしまった。
前回の騒動で凄く強くなっているので相当な身体能力である。
「まって、まってアキちゃん! 足速すぎ!」
私がそう大声で叫ぶと、くるりと戻ってきて私をひょいっと拾い上げる。
「あとでステータス調整しましょう。まずはお店へごー!」
「あーれー」
アキちゃんは力も凄い。
あっという間に四階のエリーさんのお店へと到着。アキちゃんに聞くところによると、三階に本店があったんだけど、人口拡大に伴って四階に本店を移動させたらしい。三階は支店となってるよ。だって。
「ごめんちゃらすー、エリーさんいらっしゃいますか?」
「これはアキ様。ごきげんよう。エリーは今不在です。お呼びいたしましょうか?」
「ご主人様、どうします?」
「いや、いいよ。アキちゃんそろそろ下ろして。どっこいしょっと。遊びに来ただけなんだわ。良いやつ入荷してる?」
アキちゃん号から腰を下ろし、店員さんを見つめる。前もこの人に見繕ってもらった気がするなー。この人も長いな。
「さようでございますか。防具のパンクシリーズは新世代のマジカルスーツシリーズへと変更になってますね。強度上昇と共にスーツの着心地が格段にアップしております」
「おっほ、今でも結構十分なスーツなのにそれを上回るのか。20年いなかったのはデカいなあ」
「武器は新調した方がよろしいかと。スキルが全てアキ様に移行なされたのですよね、スキルなしでは反動から命中精度からめちゃくちゃです。今まで使っていた物は全く使い物になりません。違う武器種をお使いになるのであればなおさら」
あーそっか。んじゃあステータスの向上も含めて考えた方が良いなぁ。
「天買人の特徴であるステータス購入で、ステータスがどこまで購入できるか見てみようか。ヘルプさん、良い感じに調整できる?」
『はい、諸々を含めて向上させると……』
「力350、魔力425、器用380、体力300。これで2兆8千億ドルエンかー」
ステータス1個だけ鍛えてめちゃんこ凄く尖って400やそこらなので、この数値はとんでもねー数値である。だから何でも出来るんだけど、天買人の仕様と合わせると今まで通り銃、そこに銃剣という近接物理を追加した方がよさそうなステータスになった。
ちゃんと想定したヘルプさんの提案にはミスがないので、ステータスはこれで確定。現在資金2000億ドルエンなり。また小説売って資金稼ご。TSSやってると小説書く気にならんけどね。ゴールデンウィーク中1回は執筆カフェで書くから! 1回は!
「じゃあステータスも決まったことだし今度は買いに行きますか。お金無くなったし今は本当に遊びに来ただけだね。武器は見繕ってもらうか」
「お待ち申し上げております。武器はとりあえずこれを。フェンサーという銃でリボルバー形式にもかかわらず20発の装弾数を誇ります」
「めっちゃ技術あがっとる」
「銃がメインの天買人が実装して27年も経ちましたので」
数千万人がこぞってプレイしているわけだから技術蓄積も早いってわけか。
エリーさんの店をたち、ジダン4層を見て回る。
あれだね、この幾年で4層にも繁華街が出来たんだね。ジダン最大の繁華街3層のルイッチバーグが4層にも出現したように感じる。
話によるとこの上の極めし者だけがすむ5層の上に、新たに6層を作るって話だし。
雪菜騒動で私が巻き込まれたこともあり、TSSは凄く話題になった。そりゃあ良くも悪くも。私が騒動をまとめた本を出版したこともあるし。
それで、話題になればやってみたいと思う人が集まる訳よ。おかげでプレイ人口が3億人程度に一気に、そう一気に増えたのである。私の知っているプレイ人口ではない。以前は1億ちょっとだったような……
人が増えると何がたらないかわかるかジョニー。そうだよ、食料と土地だよ。
ヘルプさん曰く、今マジで飯と住む所が足りないらしい。基本介入することをしない方針の運営も、さすがに不介入を続けることは出来なくなり、開拓しやすくなるパッチを出したそうだ。
結局開拓して飯の生産と住む所の建築はしないといけないので意味があるんだかわからないと評判だそうだ。けいじばんに教えてもらった。
「これで三層も見て回ったね。一層と二層の治安の悪さは相当なもんみたいだから、ジダン外の傭兵の館に移動しようか」
「そうですね。ミッションもそろそろクリアされると思いますし」
とかなんとか言っていると頭の中で「ぱんぱかぱーん」というファンファーレと共に「みっしょんくりあ~」という表示が浮き上がった。
「ぱんぱかぱーん。ご主人様ミッションクリアでーす。300経験値と1スキルポイント、1200ドルエンをゲットしました」
まじか、ついにスキルを買うタイミングが来たか。
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