陰陽師先輩と学ぶ、『誰が滅ぼした室町幕府』

辺理可付加

陰陽師先輩

「室町幕府を滅ぼしたのは、信長じゃないって知ってた?」


 大学構内のカフェ、テラス席。コーヒーをすすりながら。

 茶髪エアリーボブの先輩が意味不明なことをおっしゃる。


「それは、なんですか? 『結果的に信長の手で幕が引かれただけ。原因は別のヤツに』的なアレですか?」

「違う違う」


 先輩は人差し指を立てて振る。

 まぁオレだって付き合いができてそれなりに経つ。違うんだろうなってのは言われなくても分かる。

 彼女は指を立てた右腕の肘をテーブルについて、身を乗り出す。

 近くなる顔。美人なのにな。これで話さえなら。



陰陽道おんみょうどう、『しゅ』的な話だよ」



 そう。なんでも陰陽道の話にさえしなければ。






 彼女、陰陽師おんみょうじ先輩(オレがそう呼んでいるだけで、もちろん本名ではない)との出会いは今年度の初め、五月ごろ。


 日本史の教員志望なので、将来授業で話す小ネタを集めるために


『どなたか、歴史に詳しい方はいませんか?』


 とサークルメンバーに聞いてまわった結果、紹介されたのが彼女だった。



 ただ、先輩がオレの求めていた方向での『詳しい人』だったか。それはアダ名や冒頭で分かってもらえると思う。

 かくしてオレは、単元が進むたびワケの分からん陰陽トークを聞くハメになった。

 ずるずると本日の室町幕府成立まで。


 ちなみに先輩は複数の人種的ルーツがあるらしい(だから名前も長くて覚えられず、陰陽師先輩と呼んでいる)

 なので見た目にはあまり、陰陽道とかいう感じはない。茶髪だし。

 そもそも民俗学どころか医学部だし。






「聞いてる?」

「今日もおキレイですね」

「聞いてないんだね」


 騙されてくれないか。やはり見た目以外、全体的に可愛げが足りない人だ。そこが知的ステキとなる人もいるかもしれないが。オレとか。

 でなければ今ごろ、紹介してくれた先輩の手前もなく一期一会にしていたことだろう。


「聞いてます聞いてます。興味あります。で、それじゃあ結局、誰が室町幕府を滅ぼしたんですか?」

「それはねぇ」


 先輩はニヤリと笑う。この上品で、イタズラっぽくて、少し性格悪そうな微笑み。これが意味不明陰陽トーク以外で聞けたなら。



「三代将軍、足利義満あしかがよしみつだよ」

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