二分の一重人格
譜久村 火山
第1話
二つの青年の体が、いくつものコードが繋がれた椅子に括り付けられている。白衣を来た研究者が一つの体につき一人いて、手足を拘束していく。
そして最後に分厚いシートベルトのような器具で胴体を縛った。二つの体に抵抗の意志は皆無であり、作業はスムーズに完了する。
やがて研究者たちは、自動ドアを潜って部屋を出ていった。そして、隣の部屋からガラス越しに二つの青年の体を見守る。
そこに高級なスーツを着こなした、三十代半ばの男が現れた。
「上杉さん。雫、美波ともに準備が出来ました」
ひげを生やした研究者のリーダーである男が声をかける。
「始めろ」
すると上杉と呼ばれた男は短く言い放ち、指示を受けた研究者の一人が手元にあるコンピューターのボタンを押す。
次の瞬間、椅子に括り付けられた二つの体、雫と美波が痛みに悶えるように、捻じられた。
まだ若く、最近この施設へやって来たばかりの研究者が思わず顔をそむける。
その時間は数十秒ほど続いた。その間、ガラスの向こうにある二つの青年の体である雫と美波は、椅子から離れようと必死にもがき続けていた。
しかしシートベルトのような拘束器具がそれを許さない。二つの顔はともに奥歯を噛みしめていた。そしてそれらは苦痛により般若とひょっとこを足して二をかけたように歪んでいる。
しかし、不思議なことに青年がいる真っ白な部屋からは音一つ聞こえてこない。それは、目の前のガラスが重厚すぎるせいではなかった。
単に椅子に縛られた青年らに宿る人格が、叫び声を抑えているからだ。彼は喚き散らしたところで何も変わらないことをとうの昔に学んでいた。
やがてリーダーである男が、これ以上は体に異常をきたす可能性があると進言する。
上杉は名残惜しそうに眉をひそめたが、すぐ止めるようコンピューターを操作していた研究者に告げた。
やがて青年の動きが止まると、上杉は自動ドアを潜り部屋に入っていく。リーダーである男がそれに続き、ほかの研究者も後を追ってくる。
リーダーである男は、上杉の肩越しに椅子に縛られた二つの顔を見た。それはどちらも驚くほど無表情である。
しかし、その直後変化が訪れた。
二つの青年の顔にある四つの瞳から一斉に涙が流れたのである。それは静かに頬を伝い、顎の先から垂れ落ちていく。
青年に宿る人格は自分が涙を流していることに驚いたと言いたげに、雫の体にある目を見開いた。しかし、リーダーである男が瞬きをすると、もう元の無表情に戻っていたのだった。
上杉は、そんな頬に小川を作った青年を見て、笑い始めた。まるでアスリートが金メダルを手にしたかのように満足げな声である。彼はあふれ出る笑みを抑えきれないようで、しばらく奇妙な声を漏らしていた。
そしてしばらくすると、パッと顔を上げる。それから椅子の上でただ虚空を見つめる二つの青年の体の、それぞれの肩に手を置いた。
そこで上杉は、赤ん坊が初めて立ち上がった時の父親みたいな声で言う。
「そうだ。苦痛の涙でさえ共有しろ。君たちは、二人で一人だ‼」
それを聞いて、二つの体を持つ一人の青年が力なく頷いたのであった。《《》》
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