第30話
今日はいよいよ月華の舞コンテスト。
悔しいことに、まだノワールの月華の舞を見れていない。だって、ようやく父からノワールを取り戻して一緒に寮に帰ってきたと思ったらすぐにまた、黒いオーラ満載の執事に連行されていったんだ。
今日もコンテスト一緒に見ようって約束していたのに、執事によってどこかに連れまわされている。
リヴィエラ公爵家め、許さん。ツインテールの美少女オリビエちゃん達の気持ちが今更ながらよくわかる。ごめんよ、女子学生達。
俺の幼い頃のトマウマは昇華したみたいだが、前世からの未練が全然昇華できていないぞ、クソ親父。
そして、毎朝ノワールに優しく起こしてもらう健やかな日常を奪いやがって、恨むぞ腹黒執事。
俺の月華の舞は腹黒敏腕執事のスパルタ特訓のお陰で普通の鈴なら、音を立てずに歩けるようになったし、最後まで踊れるようになった。もうへっぴり腰なんて言わせねー。
でも折角だし、この綺麗な鈴飾りを使おうと思っている。産まれてくる俺の為に父が精魂込めて作った品だと言われたらなんかね。愛されてた証みたいで愛おしい。
それに俺の出る部門は面白部門だし、敵の油断を誘うのがテーマだから、逆に音を鳴らさないで歩くなんて、手練れですって言ってるみたいで警戒されそうじゃない?
え?諦めただろう?いやいやそんなことは…。そうだけど何か。
だって俺ってば所詮、悪役令息ですしね。
コンテストは三部に別れていて、第一部は女子の華陽の舞・陽部門。第二部が男子月華の舞・月部門。第三部が華部門になる。華部門は一応男女共通だけど、女の子は出ない、恥ずかしいから…。
そんな出場することさえ恥ずかしい華部門に出る俺って…。良いんだ単位の為だ、めげるな俺。
楽しみにしていた第一部の華陽の舞、短い舞だけど、女子はほとんど参加するから必然的に時間が一番長い。
午前中いっぱいを使って行われ、皆が楽しみにしてる陽部門。ノワールと見たかったのに、まだ帰ってこないから仕方なくギリアム先輩とギルバートに挟まれて観客席に座る。
「眠くなったら、俺に凭れて良いぞ。」
ギルバートの無駄に良い声と精悍な色気に周りの女性達が嬌声をあげる。イケメン爆ぜろ。
爽やかな笑顔でそんな事言ってるけど、俺はお前がお腹壊してトイレに駆け込んだ情けない瞬間を見てるんだからな。けけけ。
もう、ギルバートはほっとこ。
ギリアム先輩の方に向く。今日も麗しの眼鏡キャラ炸裂だ。ま、まばゆい。しかしギリアム先輩、今日はノワールがいなくて残念でしたね。ふふふ。
ノワールは今リヴィエラ公爵家が捕獲してますからね。そんなに優しく微笑んでもギリアム先輩には絶対にあげませんから。
「アレックス、御手洗いは大丈夫?僕が付いていってあげるから、行きたくなったらちゃんと言うんだよ。」
この人、おかんか。朝もノワールの代わりにドアをノックして起こしてくれるし、基本優しいんだよな。
ちょびっと罪悪感。でもノワールは俺のなの、絶対にあげないんだからね、涙目。
第一部華陽の舞トップバッターはあのツインテールの美少女オリビエちゃんだ。
衣装は基本的には自由だけど、女子は華やかな赤が多くて、男子は基本的には白が多い。
深紅の衣装がオリビエちゃんの気の強そうなくっきりとした顔立ちに映えて良く似合っている。
深紅の扇が踊りながらくるくると回る様が花のように美しい。最後に座りながら扇を構えて誘うようなポーズを決める。
大輪の華の化身のような美しさに会場の拍手が止まらない。
可愛いなあ。
次は、いつもオリビエちゃんと一緒にいるヴィヴィアンちゃんだ。いつも無表情な綺麗系女子のヴィヴィアンちゃんはなんと、白の衣装だ。
女の子の白は珍しいけど、めっちゃ綺麗。オリビエちゃんと同じデザインの色違いで、ふたり並ぶともっと可愛いんだろうな。ふたりで踊って欲しい。
凛とした美しさできりりと踊りきった姿に惚れそうだ。
お目当てのふたりが見られたところで、俺は先に準備に向かう。ギルバートから、先に男子更衣室で着替えを済ますように釘を刺されたからだ。
心配したギリアム先輩がついてきてくれようとしたけど断った。だって、未来の花嫁候補達の華麗な舞をみたいでしょう。
第一部の華陽の舞は女子学生ほぼ全員が参加する。下手なのもかえって初々しくて可愛かったりするじゃない。この舞台を見て結ばれるカップルも多いんだ。
更衣室のドアには『現在アレックス専用男子入室禁止』とギルバートの堂々とした字で、でかでかと貼り紙が貼ってあった。
ギルバート、いくら天罰でお腹壊したからって、ここまでしなくても。
ギリアム先輩から借りた鍵を開け更衣室に入る。鍵を内側からかけた。
自分の衣装を手に取る。
「うわー。なんで。」
衣装がズタズタに切り裂かれていた。
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