第18話


 結局、ファイヤーボール一つ出せないまま魔法初級の授業は終わった。温厚そうな先生のご厚意で一年間毎日出席して出席点とレポートを出せばファイヤーボールを出せなくてもギリギリ単位をくれるらしい。



 へこむ気持ちを押し殺し、俺はノワールと廊下に出る。気持ちを切り替えて次の授業に出よう。



 トイレにでも行こうと辺りを見回す。



 あれ?



 そういえば、トイレって立って出来ないぞ。どうするんだ?個室に入ればきっと、悪役令息アレックスってば、お腹壊してるのねって思われるじゃないか。



 一回だけでも嫌なのに、毎回なんて、どんな噂になるか。どうしよう。



 ノワールに相談するのもなんか恥ずかしいし。



 でも、トイレの事考えたら、なんかめっちゃ行きたくなってきた。


 オロオロうろうろし出した俺を見たノワールは、俺の腕を掴んだ。


「アレックス、お手洗いですね。」


 承知したとばかりに連れていってくれるが、君も知っての通り諸事情が…。



 男子トイレと女子トイレの間にリヴィエラ公爵家の紋章のある個室がある。


「アレックス専用トイレです。安心してどうぞ。」


 ノワールが、茶目っ気たっぷりに笑った。


 へ?悪役令息って、チートはないけど、専用トイレがあるの?そりゃ断罪されるわ。


 もー、よくわからないけど、漏れちゃいそうなので遠慮なく。



 扉から出てくると燃えるような赤毛の体格の良い生徒が仁王立ちしていた。キリッとした精悍な顔立ちで綺麗に付いた筋肉が制服ごしにもわかるくらいだ。さぞかし、モテるんだろうな。モテ男め爆発しちまえ。その後ろには男子学生がずらり。トイレを待ってたのかな?


 どうぞ。



「ギルバート、アレックスに何用だ?」


 ノワールが赤毛の青年との間割って入った。ノワールの広い背中に安心する。


 でも、ノワール大丈夫?ギルバート君ってば、めっちゃ偉そうだし、強そうだよ、ムキムキだし。


「平等を重んじる学園に自分専用のトイレを作るとは良い度胸だと思ってな。」


 俺もそう思う。それならまだ、毎回個室でお腹の弱い子設定の方が良かったのかも。


「アレックスが作った訳ではない。リヴィエラ公爵閣下が学園の全てのお手洗いを改装するついでに作られただけだ。」


 ノワールが平然と言い放つ。しかし、赤毛のギルバートは承服しかねるように言い募った。


「たとえ閣下が作られたとしても、それを平然と使うのは筋が違うのではないか?」


 そうだよね、俺もそう思う。


 赤毛のギルバートに同意するように、男子生徒達が頷く。


 ノワールは彼らを見やり、ため息をついた。


「お前達はアレックスに自分の粗末な物を見られる勇気はあるのか?そして、アレックスの目にさらされながら平静に用を足し続ける自信はあるのか?」



 粗末って?


 思わずノワールの背中から顔を出した。赤毛のギルバートと目があった。はっとしたように目を逸らされる。なんか耳の先が赤い。


「そうか。見られるだけじゃなくて、見えちゃうこともあるよね。粗末ってなんの事?立派な体格してるけど…。」


 ちょっと、興味があるかも。きゅるん、小首をかしげる。



 赤毛のギルバートがうっと呟きながらよろよろと前屈みでトイレに向かっていく、続く男子学生達。その後トイレからガンガン扉を叩く音と阿鼻叫喚の叫び声が聞こえた。


 うやむやのうちに俺はめでたく?男子トイレ入室厳禁になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る