第5話リヴィエラ公爵
遠征から帰ってきたリヴィエラ公爵から呼び出された。
今朝早くにリヴィエラ公爵がいない隙を狙って夫人を訪ねたのだ、これは想定内だ。
執務室のソファーに嫌味な程長い足を組んで座っている人物と相対する。遠征から帰ったばかりだというのに一分の隙もない漆黒の軍服が威圧的な雰囲気を醸し出している。
彼がアレックスの父親にしてこの国の軍事の最高権力を握る元帥閣下、王弟リヴィエラ公爵だ。
彼が物憂げに額にかかったハニーブロンドの髪を梳き上げた。
冷酷にも見えるその切れ長の翠の瞳があらわになる。目元の泣きぼくろが冷たさの中に色気を感じさせる。
眉間に寄った皺が凄みのある美貌をさらに引き立てている。
「ノワール、我が妻に何の用だ。」
不機嫌を隠そうともしない這うような低音の声が耳朶に響く。並の人間ならば裸足で逃げ出しただろうが、あいにくノワールはそんな可愛い人間ではない。
「元帥閣下、閣下が夫人にしか興味がないように。私はアレックスにしか興味はございませんので、ご心配なきよう。」
慇懃無礼に答えるノワールに、公爵の怒りが緩む。
「ノワールよ。アレックスは愛しい我が子だ。多少は興味がある。」
「愛しい夫人のお子様という一点において、ですね。」
「クッ。お前もアレックスの母という一点においてのみ興味があるというわけか。」
「はい閣下。私は閣下にも同様の興味を持っておりますが。」
先程まで威圧的だったリヴィエラ公爵の雰囲気が緩む。
「わかった。朝早くから妻に何の用があった?」
「アレックスの学園進学を認めていただきました。それと、対価としてこちらをお渡しいたしました。」
閣下の掌の上に大きめのビー玉のような碧い玉を出現させる。
「これは?」
「閣下にとっては子供騙しの魔法玉です。これを使えば、相手の身体を通常5分ほど動けなくできる仕組みなのですが。閣下でしたら、瞬間に解除可能なものです。」
公爵が魔法玉をさして興味なさげに摘まみ光に翳しながら覗き込んだ。
「だな。」
「夫人が閣下に使われたいようで、融通いたしました。」
「妻が、私に…。」
「夫人の策略に嵌まってみられるのも一興かと…。」
転がした玉を弄びながら、公爵が嗤う。その目元に男の私でも眩暈がしそうなくらい凄絶な色気が滲む。
これに執着されている巫女姫も大変だが、それに気付かない巫女姫も巫女姫だ。
これ以上アレックスが巻き込まれてとばっちりを受けないうちに絡まった糸がほどけるのを願うばかりだ。
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