第25話

堕天聖女との戦いが終わった俺はアイリスの近くに寄った。


あんぐりと口を開けて俺を見てる。


「どうした?」

「あっ、いえ。そのすごくテンション高めでしたね」

「上がらない?テンション」

「私は上がりません」


俺はゲームやってる時テンション上がりまくって叫ぶぞ。


それくらいテンションが上がる。


そして、この世界では自分が直接動いて戦うのだ。

テンションが上がらないわけが無いだろう。


「そうなんだ、上がらないか」


そう呟きながらアイリスに聞くことにした。


「ところで、刻印はどう?」


ぺラッ。


服を捲って太ももを見るアイリス。


元々刻印が覗いていた場所に刻印はなかった。


「き、消えましたっ!」


ぴょんっ!

嬉しそうに跳ねるアイリス。


「これでもう刻印に怯えなくて済むんですね!」

「どうやらそのようだな」


とにかく、これで一安心だ。


アイリスが死に怯えることはなくなるわけだ。


そして、俺も残忍な魔女というユニークモンスターは倒して実績と報酬の解除も終わった。


あとは帰るだけ、となったのだが。


ザッザッ。


足音。

振り返ると、そこにいたのはやはりアリアだった。


「堕天聖女の討伐、お見事でした」


そう言って膝を着くアリア。


その後ろには騎士達がいたが、そいつら全員アリアと同じポーズを取っていた。

これは俺に対して敬意を表している、というわけだろう。


アリアが口を開く。


「堕天聖女討伐の件で我が主に報告したいのですが、ご同行願えないでしょうか?主があなたにお会いしたいとメッセージが来ておりました」


そう聞かれて俺は首を横に振った。


「別にいいよ。めんどくせぇから」

「えっ?」


たしか、こいつの雇い主は偉い人とかじゃなかったっけ?

そんな奴に呼び出されたら話が長くなるに決まってる。


俺は校長の話でイライラしてたのに、そんな長話聞きたいと思わない。


俺は説明書読まないしとにかく動いてモンスターをぶっ倒しに行くタイプ。


そんな長々した話聞く暇があるならモンスターを倒すよという話なのである。


「んじゃあな。アリア」


俺はそう言ってアリアの横を通っていこうとしたのだがアリアは言った。


「主はそこまで来ているはずです。馬車に乗って帰りませんか?それにお疲れではありませんか?帰り道モンスターに襲われないとも限りません」


そう聞かれて俺は顔をしかめた。


俺はアイリスに声をかけた。


「アイリスは送って貰うといい」

「アマネ様は?」


そう聞かれて俺はこう言った。


「俺のことは気にするな。これは命令だ。先に街に帰っていろ」


そう言って俺はアイリスに近寄って耳打ちした。


「酒場で俺の帰りを待っててくれ、必ず迎えに行くから」

「は、はい」


俺はアイリスに金を渡してそう言うと、アイリスをアリアに引き渡した。


「ってわけだ。よろしくな団長様」


そう言ってみるとアリアは俺に詰め寄る。


「こんなことお願いされても困るんですが」

「知らないよ。俺が聖人君子にでも見える?俺は根っからの自己中だぞ?」



そう言いながらアリアにも金を渡した。


「ワイロ。意味は分かるよね?これで言うこと聞いて欲しいんだよ」

「う、うぐぐ」


金に目が眩んだらしい。


「仕方ありませんね」


そう言うとアリアはアイリスと騎士を連れて帰って行った。


俺はそれからシステマに声をかけた。


「システマ、このゲームからログアウトする」

「日本に帰るのですか?お疲れ様です」


俺の横にいつも使っている黒いゲートが現れた。


俺はアイリス達の去っていった方向を見てからゲートの中に入っていくことにした。


黒い通路を歩いていく。


昔は異世界転移とか異世界転生とか憧れてたけどさ。


「俺にはこれくらいがちょうどいいな。現実の人生は正直終わってるけど、飯うめぇし」


異世界飯ってのは何回か食べたけど、美味いんだよ。


でも、コレジャナイ感ってのはあるし、正直日本の飯の方が美味いと思う。


だから、こうやって飯を食いに戻れるのは俺にとってなかなかいい塩梅だと思ってるわけだ。


「ダブチ食いてぇ!」


そう叫びながら俺は日本に帰ってきた。


ゲートが繋がったのは自分の部屋だった。


土足で上がり込む自分の部屋。

っていうか、血まみれだ。


「先にシャワー浴びてくりゃ良かったなこれ」


そうボヤきながら俺は靴を脱いでから部屋を出た。


そのまま廊下を歩いてると、ガチャっ。


玄関の扉が開いた。

誰か帰ってきたようだ。


「ただいまー」


帰ってきた人物と目が合った。


「う、うわっ!血まみれ?!事件か?!」


そう叫んでいるのは父さんだった。


「俺だよ。天音」


そう答えると父さんは聞いてきた。


「その血はどうしたんだ?」

「ゲームだよ。知ってるだろ?あの世界でモンスターの血を浴びたんだよ。ったくくせぇんだよな」


そんなこと言いながら俺は風呂に向かいながら父さんに言った。


「悪いんだけどさ、タオルとか着替えとか脱衣所に置いといてくんない?」


血でベタつく体でシャワー室に入って体を洗い流す。


「水もくさくないな♪いい感じだ」


異世界の水はなぜか変な匂いしたからなぁ、やっぱ日本のシャワーよ。


とか思いながら俺は血まみれの服を脱いだ。

これはもう着用できない。


捨てよう。


シャンプーと体を洗うところまできっちりやってから風呂を出ると父さんは言った通りに着替えとか置いといてくれた。


体を拭いて服を身につけると髪の毛は適当に乾かして半乾きで居間に戻ってった。


すると、そこには父さんがいた。


「天音。今日ばかりは話がある」

「なに?」


ごくり。

父さんの真面目な顔。


いつもならもっと緊張していたが、ブラッディフェンリルを相手にした俺はその圧は多少薄れていた。


「担任から電話があった。学校を早退したんだってな。しかも勉強する必要性を感じない、だって?」

「あー。その話しね」


俺はそう言ってスマホを起動した。


んで、例のユグペイを起動して残高を確認。


残高は4兆だった。


「話の途中でスマホを触るな天音。そんなふうに育てた訳では無いぞ」


いつもの説教だ。


そんなことを思いながら俺は父さんに言った。


「父さん?悪いんだけどさ。もう俺の人生に干渉しないで欲しいんだよな」

「なんだと?私はお前のためを思って、だな」

「俺のためを思うならもう干渉しないでくれ」


そう言いながら俺はユグペイの残高を父さんに見せた。


「近頃流行ってるユグペイというやつか。これがどうしたのだ?時給50円のゲームだろうが。どうせお前の残高も50え」


そう言って父さんは目を動かして残高を確認して、凍った。


「よよよよよよよ、4兆?!!!!!!!なんだ?!これは!」


驚いてる父さん。


「こ、こんなもの!信じないぞ?!お前残高偽装してるだけだろ?!」


そう叫んでいる父さんからスマホを受け取ると俺はデリバリーアプリを起動して、ハンバーガーショップのマケドナルドのページを見た。


んで、適当にダブチのセットを注文すると父さんに聞いた。


「マケド頼むけど、なんかいる?」

「ふん。チョコパイだ」


チョコパイを頼んで俺はユグペイで支払う。


『ユグペイ!』


すると、機械音が鳴った。


それを聞いた父さんは叫んだ。


「ユグペイッ?!」

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