第22話
第1目標。
竜騎士団アリアの鎮圧。
「【スラッシュ】」
戦いの火蓋は直ぐに落とされることとなった。
アリアが鋭い踏み込みからの斬撃を放ってくるっ!
「はっ、遅いな」
俺は呟きながらその斬撃をパリィした。
「遅い……?」
「それで本気か?」
アリアの顔が歪む。
「言うではないですか」
アリアの顔色が変わる。
「加減してあげていたというのに」
「そんなもの不要だ。俺ってさぁ。嫌いなことがあるんだよ」
そう言ってアリアに言ってやる。
「本気出さないやつが嫌いなんだよ。でもさ」
顔を歪めて言ってやる。
「でも、そんな舐めプするカスを蹂躙して顔真っ赤にすることだけは好きだけどな」
そう言うとアリアは装備を外した。
ゴトッ。
手に着いていた篭手や足についていた装備を外したのだ。
それを見てメンバーが口を開く。
「あの男、団長に本気を出させたぞ」
「団長が重りを外した」
メンバーの会話を聞くにどうやらあれは普通の装備ではないらしい。
重りを巻いて俺と戦うつもりだった。
よくあるような舐め方だな。
俺はそんなアリアを見ながら口を開く。
「準備は終わったかな」
「はい。1分で黙らせましょう」
そう言って俺に迫ってくるアリア。
その速度は先程より早い。
しかし、早いからなんだと言う?
キンっ!
「なっ……」
アリアの斬撃を俺はもう一度弾いた。
「い、今の速度を捉える、というのかっ!」
「まだ遅い」
そして、アリアに更に追撃を行う。
「くっ……」
剣と剣がぶつかり合うっ!
その時俺は防戦一方のアリアの前で口を開いた。
「【アビスゲート】」
ユラァッ。
アリアの後ろで黒い穴が出現。
そして、そこから黒い礫が射出される。
ガン!
礫が直撃したアリアはその場でよろめいて、膝を着く。
「頭がグラグラする……」
もう決着はついたも同然だが。
俺にはやる事がある。
剣を握り直して鞘に収めると、鞘の部分でアリアの側頭部を叩いた。
「がっ……」
横に吹き飛ばされてそのまま倒れ込むアリア。
後に残るのは俺だけだ。
「女を殴るのは流石に気が引けるが、こいつはこうでもしないと黙らないだろうからな」
俺はそう言ってからメンバーに目を向けた。
「俺の勝ちだ。こいつを連れてさっさと帰れ」
「だ、団長?!」
「アリアさんっ?!」
騎士達はアリアに近寄って抱き起こす。
すーっ。
すーっ。
一応呼吸をしていることを聞いて安心の表情が浮かんでいた。
その時だった。
ミニマップ上で赤い点がうごめき始めた。
先程まで大きく動いていなかった雑魚エネミー達が動き始めた。
「おい、お前ら、早くアリアを回収して街に戻れ」
1人の騎士が聞いてきた。
「なにをそんなに急いでる?」
「雑魚エネミーが近付いてきてる。このままではお前たちもアリアも巻き込まれるだろう。俺としてはそういう流れはあまり好きでは無い」
「だから手早く帰れ、と?」
「そうだ。俺はこのままこの雑魚共を始末して、堕天聖女をやりにいく」
そう言ったときだった。
「うぐっ……」
よろっ。
アリアの声が聞こえた。
「まさか」
俺は驚きながらアリアの方を見た。
加減をしたつもりはない。
俺はいつだって全力だ。
だから全力でアリアをぶん殴った。
そして、全力でアリアを戦闘不能に追いやった、という自覚があったのだが。
「なかなかいい一撃でした。一瞬三途の川が見えましたよ」
そう言って立ち上がるアリア。
よろよろとふらつきながら俺を見ていた。
その様子で騎士たちが騒ぎ始めた。
「見たか?!旅人?!これが我らが聖竜騎士団が誇る無敵の騎士団長。どんな人間だって我らの騎士団長を倒すことはできないっ!」
「そうだ!そうだ!我らの騎士団長は不倒!倒れることなどありえはしなぃっ!」
そんな声が聞こえてきて騎士達は俺との戦闘続行を所望していたが、アリアは答えた。
「戦闘を続けましょう。旅人。私の魂の火はまだ消えていない」
まじかよ。
まだ続けるのかよ、とは思ったけど。
アリアの言葉の意味が次の瞬間分かった。
「堕天聖女は譲りましょう。私はあなたに倒された」
その言葉で騎士達はいろいろ不満を言い始めたがアリアは言った。
「堕天聖女は譲りますが、ここの雑魚敵の半分ほどは任せてください」
つまりアリアの言いたいことはこういうことか。
「雑魚を協力して倒そう、ということか」
「えぇ。それくらいはいいでしょう?」
「もちろん、助かる」
俺がそう答えると危険区域の中心部の方からゾロゾロと雑魚エネミーが近付いてくるのが見えた。
その正体は、通常モンスターのようだが、少し様子が違っていた。
「なんだあれ、普通のモンスターじゃない?」
俺は首を傾げながらモンスターを見ていた。
見た目は普通のゴブリンに見えるが少し違和感。
なんというか、
「正気を失っている?」
俺が思ったことを言うとアリアは頷いた。
「堕天聖女は特殊能力を持っています。あらゆる生命を堕天させることができるのです。あのゴブリン達は堕天したのです」
「堕天するとどうなる?」
「暴虐と殺略の使徒になるのです。何も考えることなく、ただ、あらゆる命を冒涜するだけの存在」
アリアがそう言った時だった。
ゴブリンとゴブリンが顔を合わせていた。
そして、一匹のゴブリンがもう一匹のゴブリンを殴り殺した。
一撃だった。
ゴブリンが1発殴ると殴られた方は死んだのだ。
モンスターが味方を殺す、こんな行動は初めて見る。
「敵味方の区別はついていない、というわけか」
「そうです。あれが堕天です。莫大な力を手に入れる代わりに、目の前の命を消すことしか考えないようになるのです」
そう言うとアリアは俺を見て聞いてきた。
「あんなものが世界各地を渡り歩けばそれこそ世界の危機です。だから堕天聖女の被害が広がる前に我々が倒す必要があった、分かるでしょう?」
たしかに、そうだな。
堕天させられるのはモンスターだけではなく、人間も対象のはずだ。
そうなったらこの世界はやばい。
俺はそんな事を思いながらアリアに言った。
「中心からモンスターの大群が来ているようだ。数は20ほど。半分任せる」
そう言うとアリアは答えた。
「おまかせを。この場限りはあなたの言うことを聞きましょう。旅人様」
【アリアと騎士団が指揮下に入った!】
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