第21話

俺はその日のうちにアイリスを連れて一緒にタルバの草原へとやってきていた。


聖竜騎士団が動いてる以上あまりのんびりもしていられない。


そして危険区域へと足を踏み入れた。


「あぁ、なんかやばそうな雰囲気だなぁ、ここ」


ヤバそうな場所というのはやばそうな雰囲気が漂っているものである。


今回足を踏み入れた場所も本能的になんとなくヤバそうだと思えるような場所だった。


その場所に入り込んでアイリスに聞いてみた。


「どう?ここで合ってそう?」

「はい。なんとなく刻印が熱くなるような、そんな感覚があります」


どうやらここで合っているらしい。


「さっそくだが【ヒールベール】を使ってくれるか?」

「はい」


アイリスが頷いて魔法を使うと俺たちの周りに緑色の薄い壁ができた。


この壁に阻まれて呪いは俺たちには届かない、というような仕組みだそうだ。


「あとは堕天聖女を待つだけなんだが」


と思っていたのだが。


俺の視界に映るミニマップにはエネミーの気配を示す赤い点がいくつか浮いているようだった。


「本命の前に雑魚エネミーを掃除しないといけないかもしれないな」


俺がそう言っている今も雑魚エネミー達はジリジリと俺たちとの距離を詰めていた。


どうやって戦うかをアイリスと相談しようとしていると、横から声をかけられた。


「君たちはさっきの」


そうやって声をかけてきたのは


「聖竜騎士団のアリア、か」


まさかもう危険区域に来るとは思っていなかった。


「ここに何の用ですか?ここは危険区域、と呼ばれている危険な場所ですが。帰って欲しいというのが願いですが」


怪しむような視線を俺たちに向けてくる。


誤魔化しようもなさそうなので俺はアリアに言うことにした。


「堕天聖女を狙っている」


そう言うと眉をひそめる彼女。


「ふむ。堕天聖女をですか」

「どうしても俺は堕天聖女を撃破したい。よって、帰れと言われても聞けない願いだ」


そう言うとアリアも言った。


「残念ですが我々も雇い主から頼まれていましてね、堕天聖女を討ち取ってくれ、首を持ち帰ってくれ、と。その約束を放棄する訳にもいけないのですよ」


と口にする。


分かっていたことではあるが、お互い引くに弾けない事情というのがあるらしい。


だが俺はアリアにダメ元で聞いてみることにした。


「堕天聖女をどうにかして譲って欲しい」


ザワザワ。


竜騎士団の間で騒がしくなる。


「おい、アリア騎士団長に物申してるぞあいつ」

「堕天聖女を寄越せって、そんなこと言うやつがいるとは思わなかったな」


ザワザワ。


騎士団に動揺が広がる中アリアは言った。


「堕天聖女を譲って欲しい、ですか。分かっていると思いますが我々には市民を守る役目があるのです。聖竜騎士団として」


俺の顔を見てくるアリア。


「それはあなたも対象ですよ。そして堕天聖女は現状かなり強いユニークモンスターと呼ばれています。そのような自殺行為を見逃す訳にはいけないのですよ」


話を聞く限り抜け道がありそうだ。


「では、自殺行為ではないと示すことが出来れば、譲ってもらえる、と見なしてもいいか?」


俺はそう言うとアリアは眉をひそめた。


「どのように証明するつもりですか?」


俺は単刀直入に言った。


「アリア騎士団長、あなたと俺とで模擬戦をする、そして俺はあなたを倒す。それで俺の自殺行為でないことを証明できるだろう」


ザワザワ。


騎士団の間でまた動揺が広がる。


「まじかよあいつ」

「生まれてから1度も負けたことがないと言われてる騎士団長と模擬戦?」

「それこそ自殺行為だろ」


そんな会話が繰り広げられているが、アリアは右手を横に出して騎士団のメンバーを鎮めた。


そして俺を見て口を開いた。


「私と模擬戦をする、ということがどういう事かは分かっていますね?」

「大陸最強と戦えるってことだろ?」


聖竜騎士団は大陸最強の騎士団と聞いている。

そして、そんな騎士団をまとめあげる団長も大陸最強に決まっている。


考えなくともわかる事だ。


「それが分かっていてなお、挑むというのですね」


アリアはそう言って騎士団のメンバーの1人から剣を受け取った。


そして、こう続けた。


「いいでしょう。旅の人」


ザワザワ。


また騎士団の方で動揺。


「アリア騎士団長?!おやめください。あんな小僧では貴方の相手は務まりません!」

「そうですよ!騎士団長。考えを改めてください」


と、俺が負けると思っているのか全員団長を止めようとしていた。


アリアと言うやつはそれだけ強いんだろうけどさ。


(勝手に俺が負けると思われてるのがなんかイラつくなー)


そう思った。


俺はさ。

始める前から負ける思われるのは嫌だ。


なぜ、開始前から負けなければならない。


そして、それを決めつけられるのはもっと癪に障る。

よって俺は後ろの金魚のフン共を見てやった。


そして口を開く。


「黙れよ雑魚ども」


俺が短くそう言い放つと騎士団のメンバーが吠える。


「なんだと?!雑魚だと?!」

「俺たちに言ったのか?!貴様?!」


俺に向かってそう言ってくるメンバーのことを笑ってやる。


「あぁ、そうさ。どいつもこいつも雑魚さ」


ピクリ。

眉を動かすアリア騎士団長。


「私を侮辱するのは構わないです。しかし、騎士団全体を侮辱されては、我慢なりません」


そう言って剣を抜いたアリア。


俺にこう言った。


「力の差というものを見せてあげましょう。あなたが誰に噛み付いているのか、教えてあげますよ。その身に、ね」


アリアの剣が光を放ち始める。


「【天剣】と呼ばれた私の剣技の前にあなたは今の発言を後悔することでしょう」


俺は先に確認しておくことにした。


「勝敗の条件は、どうする?」

「必要ありませんよ」


アリアはこう続けた。


「次に目覚めた時あなたは病院のベッドの上で寝ていますから。そして堕天聖女の脅威は去り、全てが終わっています」


俺は口元を三日月のように歪めてアリアに言い返してやった。


「そのセリフそっくりそのまま返してやるよ。次に目覚めた時ベッドで寝てるのはお前の方だよアリア」


この時、ピコンという音と共に俺の視界の右下に通知が現れた。


【実績を解除しました】


実績:大陸最強に挑む無謀者

取得条件:聖竜騎士団の団長アリアに勝負を挑む



……。


ってこれも実績解除できるのかよぉ?!


うそーん?!

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