第15話

タルバの墓地に入るとさっそくミニマップにエネミーの反応。


「さっすがファンタジー。墓地とエネミーは切り離せないってわけか」


そう呟くと聞いてくるアイリス。


「アマネ様。なにか分かったのですか?」

「ミニマップにエネミー反応がある」

「ミニマップを使えるのですか?!」


驚かれた。


「なんでそんな驚いてるの?」

「い、いえ、ミニマップは上級者しか使えないと聞いたことがあるので。上級者冒険者さんですね!」


そうなんだろうか?


実感は湧かないが。


(まぁ、レベル3000ってなると上級者には分類されるのかな)


そんなことを思いながら俺はさっそく墓地を歩き始めた。


墓石が大量にある薄暗い場所を歩いてるとやがてミニマップ上では赤い点と黄色い三角が近づいて行く。


しかし、


「エネミーは見えないな」

「どうしたんでしょうね?」


普通であればエネミーに近付くとある程度離れた位置からでもモンスターを視認できるんだが、今回は出来なかった。


「ていうか、このエネミーさっきから動かないけど、どうしたんだろう」


ミニマップに表示される円は多少なり動くものばかりだった。

しかしこれは動かない。


となると、だ。


「ゾンビ系かな」


俺がそう思いながら墓石の方を見ていたときだった。


ズボッ!


手が生えてきた。


白い手。

心霊写真とかで見るような肉のある手ではなく、骨だった。


「ひ、ひぃっ!手っ?!」


アイリスはビビったように俺の後ろに隠れてしまう。


「これ系は苦手ってわけね」


ブルブル震えてるのが伝わってくる。


かと言う俺も予想していなかったらビビった事だろう。


ヌルッ。

そのままガイコツは出てこようとしていたが俺はその前に動く。


「出てきたところ悪いんだが、もう一度おねんねの時間さ」


剣を持ってそのまま俺はガイコツに向かって振り下ろした。


しかし、だ。


「おい、どうなってる」


当たってる。

当たったはずだ!


なのに、攻撃は有効打にならない。


「まさか、起き上がりに対する無敵のようなものか」


ゲームにありがちな無敵があるのかもしれない。


起き攻め防止のためにダウンから立ち上がる時無敵をつけるゲームは多いのと同じで敵の起き上がりにもついてるのかもしれない。


「すげぇ、ゲームだなほんと。簡単には攻略させないってわけね」


呟いて俺はいつかは当たるだろうと思ってガイコツに対しての攻撃を加えていった。


しかし、当たらない。


数時間後。

日が昇る頃までどうにか当てようとしていたが結果は無駄だった。


当たってるはずなのに有効打にならない。


しかし、その時だった。


「光よ、ホーリーライト」


凛と澄んだ声。


それと共にジュアッと焼けるようにして消えていくガイコツ。


俺は声の聞こえた方を見る。

そこにいたのは金色の髪の女だった。


(現地人か)


そう思ってたら女は近付いてきて名乗った。


「手助けは不要だったでしょうか?」

「いや、助かったよ」


負けることは無かったが勝つこともなかった。

このまま続けていても平行線だった。


正直ムキになってた。

俺がこんな雑魚相手に勝てないのか?!ってムキになって殴り続けてた。


横槍がなければこのまま殴り続けていたかもしれない。


「アンデッドは既に死んでおります。物理攻撃は無効化されます」


と口にする女。


「なるほどな。それで俺の攻撃が通用しなかった、と」

「はい」


俺は今起きたことを踏まえて自分なりの考えを聞いてみた。


「だから浄化する、と?」


今の感じは成仏、とか浄化って呼ばれるものに近いと思う。


「聡明な方ですね。そうです」


頷く女。


そのまま女に聞くことにした。


「こんなところに何を?」

「墓参りですよ。ですが、見ての通りエネミーが出現するようでして、困りますね」


ふふっと笑いながら近くの墓に手を添える彼女。


そこに刻まれた名前には見覚えがあった。


【グランの墓】


「つい先日死亡が確認されたようでしてね」


どうやら彼女はグランの知り合いらしい。


「どういう関係だったんだ?」

「姉の婚約者でした」


そう言って彼女は隣にあった墓にもお参りをしていた。


「どなたか分かりませんが、生死をはっきりさせてくれて感謝しております」


って言ってから立ち上がる彼女。

俺を見ていた。


「ここで何を?まさか墓荒らし、とは思いませんが」


俺はアイリスの太ももにある刻印について話した。


「なるほど、残忍な魔女ですか」

「そういうわけだ。俺はこれから向かうところがある。たしか、最後の目撃者の名前はリーゼロッテ、だったかな」


アマンダに聞いた名前を口にしてこの場を後にしようとしたのだが、彼女は言った。


「私がリーゼロッテですよ」


ニコッと笑ってきた彼女。


「えぇ?!」


あんぐり。

口が開いた。


まさか目の前に探し人がいたなんて。


「こんなところでお話をするのもなんですし、私のお屋敷に案内しましょう」


そう言って墓地を出ていこうとするリーゼロッテ。


「お話しますよ。残忍な魔女について」

「よろしく頼む」


ちなみに今日は残忍な魔女とやらに会えそうになかったし、とりあえず言うことを聞くことにしよう。


そのまま俺は墓地を出ると、すぐそこにリーゼロッテの馬車があった。


「ずいぶん上等なものを用意してるんだな」

「貴族ですからね」


そう答える彼女に続いて俺も馬車に乗り込んだ。


「それにしても随分と早朝から墓参りをするんだな」

「涼しい時間ですからね」


そのまま馬車の中で軽く自己紹介をしながら俺は彼女の家の応接間に通された。


ことり。


目の前にティーカップが置かれた。


「……」


顔をしかめる。

こんなところに招かれることなんて無かったから礼儀作法とかは知らない。


飲まないのが正解なんだっけ?


悩んでるとリーゼロッテは言った。


「どうぞ、お飲みになってください」

「いただきます」


ずずーっ。


飲んでみた。

普通に美味いので、思わず口に出た。


「うまっ。なにこれ、飲んだことないやこんなの」


ずずーっ。

ぐびっぐびっ。


一般家庭育ちが出てしまったが特には気にしないことにする。


今更取り繕っても育ちの悪さは隠しきれないだろうし。


そんな俺を見てリーゼロッテのメイドは顔をしかめていた。


(分かっていたことだが、一般家庭育ちは本来お呼びではないらしい)


しかしそれを見たリーゼロッテは口を開いた。


「おやめなさい。私の客人です。失礼で無礼なのはあなたと心得なさい」

「失礼いたしました」


俺とリーゼロッテに向かって頭を下げてくるメイド。


どうやらリーゼロッテは気にしていないようだった。


「さて、ではお話しましょうか、残忍な魔女について」


そうして彼女は魔女についての話を始めた。


【残忍な魔女について】

・リッチの特殊個体

・強力な魔法を使うことができる

・出現確認場所【タルバの墓場】、【タルバの草原】

・【呪い】と呼ばれるバッドステータスを付与してくる。呪われたものは一定期間を過ぎた後に死ぬ

・神出鬼没である

・しかし、確定出現と思われる状況がある。討伐するならそこを狙うのがいい



というようなことを話し終えてからリーゼロッテは言った。


「もし討伐する気でしたら急いだ方がいいかと」

「なにかあるのか?」

「最近勢いを付け始めたイチジョウ レイという人間が率いるパーティも魔女に目をつけているようですから」


一条か。


ここでも立ちはだかるか。


だが、競争相手はいる方が楽しい。

そして、目の前で獲物をかっさらっていくのが、楽しいんだよなぁ。


人間誰しもそうだろ?

人より上に立ちたい。

見下したい。


そういう思いが必ずどこかにあるだろう。

じゃなけりゃ、課金して敵をぶん殴るだけのソーシャルゲームなんて流行らないよ。


そして、俺もそんな欲望に忠実な人間だった。


他人を見下すのは楽しいんだ。


性格が終わってる?

いや、違う。


欲望に忠実なだけさ。

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