第14話
俺は翌日ギルドにやってくるとさっそくアマンダに話を聞くことにした。
「残忍な魔女についての話を聞きたいんだが」
「あぁ、魔女について、ですか」
頷くアマンダ。
「残忍な魔女はリッチと呼ばれるモンスターの特殊個体です」
リッチ、か。
それなら聞いたことがある。
人型で魔法を使ってくるモンスター、だっけ?
「どこにいる?」
「それは私には分かりませんね。移動型のユニークモンスターみたいですから」
「移動型?」
「ユニークモンスターには残留型と移動型がいます」
そう言われて俺はアマンダに確認してみることにした。
「アビスキングは残留型、ブラッディフェンリルは移動型って感じかな」
「そうです」
コクリと頷く彼女。
薄々気づいてはいたが、俺があそこでブラッディフェンリルに出会ったのはただ単に運が悪かったというだけのことらしい。
まぁそんな運の悪さすらねじ伏せて勝ったんだけどな俺は。
いや、気持ちいいねーあの時のことを思い出すと。
そう思いながら俺はアイリスに目をやった。
「どこで襲われたんだ?」
「タバルの共同墓地です。作業をしていたら襲われたのです」
その言葉を聞いていたアマンダが口を開いた。
「そこであれば目撃情報が比較的多い場所、になっていますね」
「そうなのか」
「はい」
「最後の手段として待ち伏せというのも考えておこう」
俺はそう言ってアマンダの目を見た。
「ところで、目撃情報が多い、ということは目撃した人間が何人もいるって事だよな?」
「はい。それがどうかしましたか?」
「直近の目撃者の話をしてくれないか?」
俺がそうやって聞くとアマンダは直近の目撃者についての話を始めた。
名前と住所などは分かったが。
「こんな深夜に行くのでは迷惑だな。時間を改めて訪問しよう」
「それがよろしいかと」
俺はアマンダに礼を言ってその場を後にしようとしたのだが、その時ギルドに人が入ってくる気配。
こんな夜中に、現地の冒険者だろうか?
そう思って振り返る。
そこにいたのは
「あ、古賀くん。こんばんは〜」
そう言って近くに寄ってきたのは黒木だった。
それから、友達?がいるようだ。
「こっちは友達っ!」
思ってた通りの自己紹介をしてくれる黒木。
それから黒木は聞いてきた。
「古賀くんはなんでこんな時間にギルドに?」
「そっちこそ」
聞いてみると黒木は言った。
「寝ようと思ったんだけど寝れなくて〜。それで友達からユグドラシルに行かないって誘われてここに来ました」
なるほど。
そういう過程があったらしい。
そう思っていたら友達の方は俺に話しかけてきた。
「あ、あの〜?私はユミカって言うんですけど」
下の名前で名乗るんだ、って思ったけど俺も名乗っておくことにする。
「天音。よろしくね」
そう言うとユミカは続けた。
「見てくださいよ〜これ」
グイッ。
ユミカは自分の袖をまくった。
そこに刻まれていたのは
「魔女の【呪い】か」
呟くとユミカは驚いていた。
「知ってるんですか?!」
「今その件でちょっとごたついててね」
ユミカは泣きそうな顔をしてた。
「ちょっと道に迷って墓場の方に行っちゃったんですけど、その時に刻まれちゃったんですよ〜。街の人に話を聞くと放っとけば死ぬよって言われてそれで困ってます」
俺たちにとっての死ぬというのはゲームオーバーになるってだけなんだけど。
まぁ、ゲームオーバーにはできるだけなりたくないよな。
そう思ってたらユミカは言った。
「罰が当たったのかなぁ」
「罰?」
「はい。私この世界に来た時血塗れの人を見て驚いて写真撮っちゃったんですよ。その罰なのかな」
「それは血塗れで歩いてるやつが悪いよな。君は悪くないだろ」
誰だって驚く。
ユミカは悪くないだろう。
「じーん。ユミカ感激です〜♡初めて同情してもらえましたっ!」
喜んでいるようだったが。
俺は特に気にしないでユミカに聞いた。
「ところで呪われたのはいつだ?」
「昨夜ですねぇ!」
「昨夜か。ありがとう」
俺は2人から目を逸らしてアイリスに言った。
「墓地に向かってみよう。もしかしたら今いるかもしれない」
「はいっ!」
力強く頷いたアイリスと一緒に俺はとりあえず墓地に向かってみることにした。
どのみち、今のところやることないしな。
それと叫んでいいかな?
移動型とかめんどくせぇ要素出してんじゃねぇぞ?!開発!誰が作ったのか知らないけどさっ!
全部残留型にしとけっ!
◇
そうして俺は墓地の方にやってきたのだが、そこには先客がいた。
女だった。
黒髪ロングの女。
そいつは俺に気付いて振り返った。
「こんばんは。日本人かな」
そう聞かれて俺は頷いた。
「そうだけど」
「なんの用で?ここに?」
「探索は基本だ。俺は気になったところの探索は欠かさない。んで墓地と言うとだいたい何かあるし」
そう言って話を切り上げようとしたが女は逆に自分の目的を明かした。
「私は【残忍な魔女】というユニークモンスターについての情報を集めている。なにか、知らないか?」
そう聞かれて俺は言った。
「知らないな。知っていても名前も知らない奴に教えるほど聖人じゃない。知ってるか?情報ってのは有料なんだぜ?」
そう言ってみるとコホンと咳払いして彼女は自分のメニュー画面を操作した。
次の瞬間、俺になにかが届いた。
【冒険者カードの送り物が届いています。受け取りますか?】
→はい いいえ
なんのことか分からなかったがとりあえず受け取ってみることにした。
すると、こう表示された。
名前:一条 スミレ
レベル:40
冒険者ランク:C
わおっ。
こんなもの送れるんだな、このゲーム。
俺はそう思って一条の顔を見た。
それにしてもこいつがそうか。
(一般的には現在最前線を走っているとされる攻略パーティの一条)
初めて見たが、結構優秀そうな女だな。
それから一条は言った。
「いくら払えば話してもらえるだろうか?」
そう聞かれて彼女は知っている情報を話し始めた。
しかし俺の知っている情報と同じようなもの。
「俺もそれ以上は知らないよ」
そう言ってみると一条は頭を下げた。
「協力してくれないだろうか」
顔を上げて俺に手を差し出してきた。
「私はゲームが好きだ。そんなゲームを頼れる仲間と一緒に進めていきたい、と思ってる。そのためにあなたの力が必要だ。協力して欲しい」
そう言われて俺は首を横に振った。
「悪いんだが俺は集団行動ってのが苦手でね。それと俺は頼れる仲間と攻略したいわけじゃない。俺はソロで突き進んでいきたい」
ソロは簡単で分かりやすい。
勝てば全て俺の功績。俺のおかげ。
俺の努力の賜物。
それがはっきりと分かるから。
逆にパーティを組むとなると、誰に足を引っ張られるか分からない。
だから俺はあまりパーティを組みたくない。
「俺のことは仲間にならないNPCとでも思えばいい」
そう言いながら俺は墓場の中に入っていく。
一条はそれからなにか声をかけてくることは無かったが、最後に一つだけ聞いておくことにした。
「一条?」
「なんだ?」
「若く見えるけど、学生か?」
聞いてみると頷いて一条は言った。
「高校生」
少しだけ共感したので聞いてみる
「不登校?」
「いや、違う」
そう答えられて俺は心の中で言った。
(こいつには真面目さが足りない。ゲームにかける情熱が足りない。仕事を辞め学校をやめゲームに貼り付け!それがゲーマーというものである)
心の中で説教しながら俺は墓地に入っていくことにした。
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