ヒーローズ

加茂半蔵

第1話

それは沈みかけの夕日がアスファルトに反射して町全体を赤く染め、、町は学校や仕事から帰る人たちの雑踏であふれていた。そんな日の帰り道だった。俺は自転車を押し、Aの歩くスピードに合わせながらくだらない話をしていた。高校から15分くらい離れm町の細い路地に入った時だった。Aが言った。

「おいっ、あれ山田じゃないか」

そう言われ、俺は視線を上げた。登り坂になった路地を抜けた先に、息を切らしながら必死に走る山田と、それを追いかける数人の男子学生が一瞬だけ目に移った。そして俺はAに言った。

「あいつにもついにあんなファンを抱える時代になったか」

「何のんきなこと言ってんだ!明らかに追われてんだろ!」

Aのツッコミと同時に自転車にまたがる。かなり鬼気迫った状況がなぜを考えることを中止させた。今はとにかく追わなければなるまい。ペダルに思いっきり足を掛け、

「乗れ!」

するとAは後部の荷台に飛び乗り、俺たちの壮大な追いかけっ子がスタートした。


俺は自転車を漕ぎながら、情報の整理をしていた。

今追われている彼女は山田希子。同じクラスの女子生徒である。背丈は155センチくらいで小さく大きくぱっちりとした目元がかわいらしいと学校では大変人気な様子である。とはいえ、柄の悪いのに追われるとはなんとも不運な人である。

しばらく考えてると後ろのAからクレームが入る。

「もっとスピードだせねぇのか、このタコ」

「うるせぇ、てめえが重いからだろこの筋肉達磨!」

Aは180センチ75キロの大柄で、日本人平均の俺とは15キロ以上の差がある。どう考えても漕ぐのは俺のほうじゃなったはずだ。そうした不満も燃料に替えさらにギアを上げる。もっとスピード上げ追っているとようやく彼女たちにおいついた。


見ると、廃工場のような施設であった。さびれたトタンで覆われ、まるで不良のドラマセットの中にでも入ったような感覚だった。そんな感覚だったからだろう。Aが工場のドアをけり破って中に入ると、3人の男に四肢を押さえられ、今にも犯されそうな彼女の姿が映った。白く細い四肢と、一筋に流れる涙は彼女に今にも散りそうな可憐な白ユリの花を彷彿とさせた。


俺はAのほうを向きながら

「なぁはじめに聞いとくが、あれが合意の上での行為だった場合、俺たちはただの犯罪者ってことになるな」

「そうだな、二人仲良く豚箱行きだ」

「リア充ぶっ飛ばして前科一犯か、笑えるな」

Aが特殊部隊よろしくというような派手な突入をしたため、男たちがこっちに気づいた。こういうのはそしてゆっくりと近づいてくる。その怏々たる様子からかなり喧嘩慣れをしているようだ。そして男が一言。

「何の用だお前ら!」

 「ヒーローだ。」と俺はさわやかな笑顔で答えた。

こそっとAがかっこつけすぎだろといったが気にしない。今はそれより雰囲気のほうだ。身長190ありそうな大男と、俺と同じ170ぐらいのが二人、ボクシングの要領で両手を胸の前で構え、戦闘態勢にはいった。

「右の大きいのやってくれ、二人は俺が片付ける」とAはいう。

俺は一人のほうを譲ってくれたのはAのやさしさかと思ったが、それは違った。明らかに小さいほうが楽そうであったのだ。

「おいちょっと待て、マッチョマンを俺によこしといて、自分はもやし二人かよ。楽してんじゃねーぞおい」と半ギレ気味に言う。相手にとっては大変失礼極まりないこの発言、もう完全に煽っているようにしか聞こえなったためか、大男が俺のほうに殴りかかってきた。

大振りの右ストレートを上体を沈めてかわしステップのすれ違いざまにボディに左フックをかました。体格差のせいかあまり聞いている感じはない。そこに飛んでくる左右のワンツーをバックステップでかわす。体格差20センチの剛腕から放たれた二撃は俺の顔をわずかにかすめ、空気を揺らした。

しかし困った、この大男を完全になめていた。やつのボディは、言うなれば鋼鉄であった。腹筋は相当鍛えられ、俺のパンチぐらいではびくともしないだろう。狙うは顎か男特有の急所かだが、アソコという選択肢はすぐに消した。武士の情けもあるが、女の子のほうもアソコをけって助けられてはいたたまれないだろう。


変わらず大男は鬼の形相を浮かべ、両手で掴もうと迫ってくる。それに対し、俺は後ろ回し蹴りをお見舞い、とっさにガードした大男だが、体制が崩れてしまった。俺はすかさずやつの顔面にオーバーハンドフックをかましそのまま地面に叩き付けた。すると、ゴンッと鈍い音がなり、やつは力なく倒れこんだ。








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