第24話 女子会ランチタイム
続く二年生の団体競技が終わって昼休みになった。
男子の誰かが「テントで皆で飯を食おうぜ」と言うと、女子の誰かが「じゃあ教室は女子の貸し切りね」と言ったので、男女で分かれて集会のように昼食を取ることになった。
そういうことじゃない、と悲しそうな感情を向けるクラスメイトには同情しないでもなかったけれど、私はずっと日の当たる場所にいたため、正直そろそろ辛い。
そんな中、ただでさえ全員入らないあのテントにすし詰めになって暑苦しく食事するなど御免なので、諦めてもらうことにした。
私はその中に、九十九くんが嫌そうな顔で混ざっている様子を想像するだけでお腹いっぱいである。彼のことだ。どうせ上手く逃げるのだろうけど。
とはいえ、女子だけで集まるというのもそれはそれでやや不安がある。うちのクラスの女子はそこまで陰口などは言わないけれど、普通の会話も私には時々難しい。
教室で普段女子たちから聞こえてくるような、ファッションやアイドルやSNSで流行りの話題が分からない私には、疑問符を浮かべながら相槌を打つことしか出来ないことがあるのだ。
そんな風にやや身構えながら参加した女子会だったが、体育祭中だということもあってか、体育祭の話題が中心だった。あの時のあれが楽しかった。あの時のこれが悔しかった。
そんな会話に混ざりながら食事をするのは楽しくて、学校行事を満喫できていると実感できる。
玉入れの時のこともお礼を言われた。それも、普段あまり話さない子から。
「あの時ウチらがやりやすいようにしてくれてたでしょー? マジ助かったー! ありがとねー!」
九十九くんの言葉が頭に浮かんだ。これも、私の行動の結果なのかな。
「その代わり私はほとんど入れられなかったから、お互い様だよ」
やっぱりまだ受け止め方がわからなくて、そんな風に返してしまう。
まあねー! と軽く流してくれるのがありがたかった。
その後、借り人競争の話になって、また大野さんが持ち上げられていた。
うちのクラスで一番イケメンとの評価を頂いた大野さんは、かっこいいと褒めると喜んではくれるけど、まああたしはそっち寄りだよなと、内心少し悲しくなる。
反対に、かわいいねと褒めると、あたしには似合わねえよとクールに返すが、内心ホクホクと嬉しそうな色を見せる。
そんな乙女な面もあるのだ。その辺にしておいてあげて欲しい。口には出せないけれど。
「その後もその後で、ちょっと衝撃だったよね」
「ねえ、写真って結局どんなの?」
一瞬何の話か分からなかった。九十九くんの話か。
「はい」
何でも無いように見せてしまったが、知られたら怒られるだろうか。またため息で済めばいいけど。
女子たちは代わるがわる私のスマホを覗き込んでは、意外そうに九十九くんの写真を見ている。後ろから撮ったやつだけど、タイミングよく九十九くんと迷子の少女が同じ方向を向いてくれて、横顔が綺麗に映ってくれた。
「っていうか、なんで競技中にスマホ持ってたの?」
「アピールで使えるネタがあるかもしれないから、ってお願いしたら取りに行かせてもらえたよ」
貴重品はクラスごとにまとめて管理してもらえている。だが、熱中症対策で自動販売機を利用したい生徒への対応もしなければならないので、事情次第で一時的に返してもらえる。
なんなら種目の順番上、実は玉入れの時から持っていた。昼休みの間だけ、全員一時的に返してもらえるので、今は皆持っているけど。
「それにしても、ニノマエがねえ」
「何がどうなればこんなシチュエーションになるのよ」
「小さい子が趣味とかじゃないよね」
クラスの女子たちは本人がいないからか、遠慮なく思い思いのことを言う。優しいエピソードのはずなのだが、なんだか怪しい雰囲気になってきた。ごめん、九十九くん。
「ていうか私服だよね?一緒に出掛けてたの?」
もしかしてデートか、と盛り上がる教室。デートどころかこちらは見つかってすらいない。
これ以上彼の風評被害を広げるわけにはいかない、とその時の事を話したのだが、それが墓穴だった。
「それって……ストーカー……」
クラスメイトから向けられる、ちょっと引いた視線。しまった。そうなるのか。
「いや、違うよ。偶々見かけて、声をかけるタイミングがなくて」
我ながら尚の事怪しいな、と思うけれど、他にどう言えばいいか分からない。
「うん、いや、でもねぇ」
「正直いつかやると思ってたよね」
「ニノマエと進藤が話してるとピクピク反応してるし」
「化学の実験とか調理実習の時とか、別の班なのにじっと見つめてる時あるよね」
「なんなら何かメモしてる時あるよね」
どうしよう。思ったよりバレている。そして人の口から聞くと確かに危ない女に思える。いや、危ない女なのかも知れない。
以前大野さんに言われた時は、具体的に何がどう、という話は聞いていなくて実感していなかった。
確かに友人がこう見えていれば心配もする。
「まあでも、良いんじゃない」
冷や汗をかきながら硬直していると、助け船がでた。いや、いいのだろうか。今止めてもらった方がいいんじゃないだろうか。
「恋人同士なら、お互い了承の上でしょ」
……ん?
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