第20話 帰宅
「おっさん────!!」
レシィの悲痛な叫びが森に木霊する。
「ジーク様っ!!」
クラインも地面に両手をついて涙目になっていた。
むく……。
疲れた顔をして、ジークフレアが再び起き上がる。
「うるさいっ!!」
三人を一喝した。三人とも驚いてビクリと身体を揺すった。
「静かにしろ!! 眠れんだろうが!!」
「あ、あぁ~」
クラインが、今度は安心したように尻もちを搗く。
「良かったぁ~、死んだのかと思った」
ピエールも笑った。
「心配させんなよ、バカ」
「眠いと言っただろう、戯け」
「じゃあ寝てろ。傷はアタシが治してやっからさ」
「頼む」
レシィの太腿に身体を預けるジークフレアだったが、「ああ、そうだ」とすぐに起き上がった。
「今度はなに?」
「クライン、ピエール」
「はい」
ジークフレアは荷車を指差した。
「折角だ。お前らも漁っておけ」
「え?」
「なかなかに良い得物が揃っている。お前も」
ジークフレアが真上にあるレシィの顔を見上げた。
「売るでもよい。なかなか良い金になるぞ」
「うん! そうする」
「そうするんだ……」
クラインは思わずレシィを二度見した。
「あと、腹が減った。肉が喰いたい。お前ら何でも良いから、なんか捕ってこい。それじゃあ、俺は寝る」
二人にそう言い残すと、ジークフリートはすとんと寝落ちした。
「~んだよ、もう!!」
「ハハ、お前らも大変だな」
地団駄を踏むクラインを見て、レシィが困ったように笑う。
「仕方ない。何か捕まえに行きますかね」
ピエールは立ち上がった。
「いいよ。お前はここにいろ」
溜息交じりにクラインも立ち上がる。
「いいの? 休んでて?」
「馬鹿か、お前? 魔族がまだいるかもしれねぇだろ。今の状態のジーク様と聖女様を残せねぇ。お前は二人についてろ」
「ヒュ~。クライン君、格好ウィ~!」
「うるせぇよ! 焚火の準備でもしてろ!」
そう言い残して、クラインは狩猟のために森に入って行った。
こうして、彼らの長い夜は明けるのだった。
四人がロア村に帰ると、小川に掛かる小さな橋の上で、三つの影が仁王立ちで待ち構えていた。
「二日間も無断でど~こほっつき歩いてたんだい!?」
「あ」
「げ! ヘレンさん!?」
ヘレンがクラインとピエールに鋭い眼差しを向けていた。
「まったく貴方たちは……。私たちがどれほど心配したと思っているのですか!?」
「オリバーさんまで!」
オリバーもジークフレアたちに詰め寄る。
「レシィちゃんもですよ!?」
「ポ、ポポイヤ!」
「心配のあまりこのポポイヤ、この二日で五キロは痩せちゃいましたよ!?」
普段はあまり怒らないポポイヤもぷんぷん顔である。
だが彼らの意見ももっともだった。
本来はただ買い物に行っただけ。当然、その日のうちに帰る予定だった。だが四人は結局、朝まで森の中で野宿をすることとなった。
そして今はもう夕方。村を出発してから二日が経っていたのだ。
「クライン~? ピエール~?」
ヘレンが不気味な笑顔を二人に近づける。
「いま屋敷にゃメイドは私一人しかいないから、当分屋敷の仕事をお願いしてたわよねぇ?」
「ひぃ~!?」
「洗濯と今日の夕食作り、しっかり手伝ってもらうから覚悟おしよ!?」
「マジすか!?」
クラインはうな垂れた。
「ジークフレア様!」
普段は冷静なオリバーも本日は興奮気味である。
「貴方は王族なのですよ!? ちょっとはご自身の立場も自覚してください!」
「知らん!」
ジークフレアは憮然として横を向く。だが、どこか決まりが悪そうに首を掻いた。
「レシィちゃんもね!」
「ごめんごめん、分かったって!」
プンスカと怒るポポイヤを見て、レシィも困ったように笑う。けれどポポイヤは喋るのを止めなかった。
「あのね、レシィちゃん! 我々聖職者には日々の大切なお勤めがあるんです! 聖堂のお掃除、書類のお片付け、そしてポーション作り……。明日はぜ~んぶレシィちゃんにやってもらいますからね!?」
「そっ、そんなぁ~!」
そんな感じで、クタクタの四人はこっぴどくお説教を食らう羽目になるのだった。
何はともあれ、本来ならば勇者ニルスたちの前に立ちはだかるはずだった幽鬼はジークフレアの手によって倒された。主人公たちが手に入れるはずの最強クラスの武器、【妖刀ムラマサ】も彼のものとなったのである。
こうして、お互いのことなど知りもせず、ゲーム正史はジークフレア──戦国の悪鬼によって少しずつ狂わされ始めた。
その日の夜、カレの町。
ホ──
ホ───
ホ────
ぽうぅ……!
東の森で木の枝に引っ掛かっていたランタンが独りでに光を放ち始めた。
フクロウが驚いて飛び去っていく。
「やれやれ、まったく」
ランタンは今度は喋り出すと、金属の翼を広げた。
バサッ──
枝から飛び立ち、荷車に降り立った。棺の中を覗き込む。
「チッ! あいつらめ、折角オイラたちが集めたお宝を……!」
四人は持てるだけの武器を手にして引き揚げていった。昼間だから動けなかったが、彼はそれをずっと枝にぶら下がって見ていたのだ。
アンデッド系魔族──ランタンバード。ガイコツ兵士たちの仲間で、偵察の役割を担っていた。
「取りあえず、デュラハン様に報告しなければな」
そう言い残し、ランタンバードは暗い森から飛び立つのだった。
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