私小説

明け方

1

「私はあなたの事が嫌いよ、歴木くぬぎ君」


 まったくの初対面である僕に対して、出し抜けに先輩はそう言った。

 僕は当然「はいそうですか」なんて言えるはずもなく、かといって「僕だってあなたの事が嫌いです」などと反駁はんばくする気概もなかった。つまるところ僕は何も言わず、ただただそこで突っ立っていることしかできなかった。

 四月の中旬。僕たち以外誰もいない、文芸部室での事だった。

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