カップ
野林緑里
第1話
“王冠”と名付けられたカップはいつもそこにあった。
なぜ王冠と名付けられたかと言うとやはりカップには王冠が描かれたからなのだといっても差し支えない。
とある有名な陶芸家が作り上げたカップには青い塗料で描かれた王冠がカップの外側にいくつも連なるように描かれており、中には西洋風の衣装を着た王様らしき人物が座っている姿が描かれている。
青一色で描かれたそれはど素人の私にはさほど高価なものには思えないのだが、透明な箱に入れられ厳重に鍵がかけられていることからかなりの高額なしなであるともとれる。
なによりもその有名な陶芸家の名前が値段を引き上げているに違いない。
私はしばらく高価らしいカップを見つめたのちにそっと箱にふれてみる。
もちろんカップを手に取ることができない。
私は一度離れるとすぐに再び手を伸ばした。
パリン
ガラスが割れる音がした。
同時にカップがその中からこぼれ落ちる。
床に転がったカップは再び立ち上がり、箱にいた頃と同じような様子でそこにいた。
私はそっとその王冠が描かれたカップの取っ手を握りしめた。
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
「つぎのニュースです。昨夜未明、博物館からカップが盗まれました。そのカップは有名陶芸家の作品で何億もの価値のあるものだそうです。カップが展示されていた場所には一人の女性の遺体が発見されており、女性の死亡した経緯とカップの行方を捜索中です」
カップ 野林緑里 @gswolf0718
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